研究概要 |
グリア細胞株由来神経栄養因子(GDNF)は,運動ニューロンに対して強力な神経栄養活性を有することから,運動神経損傷や運動ニューロン疾患に対する治療効果が期待されている.本研究では,GDNFの遺伝子導入によるこれらの病態の治療の可能性を追求する目的で,GDNF組換えアデノウイルスを作製し,成熟ラットの運動ニューロン損傷モデルに対する治療効果について検討した.成熟Fischer344雄ラットの右顔面神経あるいは第7頚髄神経根を引き抜き除去したのち,傷害側の茎乳突孔あるいは椎間孔にヒトGDNF組換えアデノウイルス(AxCAhGDNF),β-galactosidase(gal)組換えアデノウイルス(AxCALacZ)またはPBSを接種した.AxCALacZ投与群では,傷害側の顔面神経核,脊髄前角運動ニューロンがβ-galで明瞭にラベルされ,組換えウイルスによって同ニューロンに外来遺伝子を導入し得ることが示された.AxCAhGDNF投与群では同ニューロンがGDNF免疫染色で強陽性となり,RT-PCRで傷害側脳幹,脊髄組織にヒトGDNF mRNAの発現を認めた.2-8週後,灌流固定Nissl染色ののち顔面神経核,前角運動ニューロンの数を算定したところ,PBSおよびAxCALacZ投与群では,引き抜き損傷後2-8週で障害側顔面神経核,脊髄前角運動ニューロンの明瞭な脱落を認めたが、AxCAhGDNF投与群では運動ニューロンの脱落が有意に抑制された.また,AxCAhGDNF投与により傷害側運動ニューロンにおけるコリンアセチル転移酵素免疫反応性が改善,一酸化窒素合成酵素活性が抑制された.本研究により,成人における運動神経損傷や運動ニューロン疾患に対するGDNF組換えアデノウイルスを用いた遺伝子治療の有効性が示唆された.
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