研究概要 |
視覚的注意の時空間特性の解明を目指し、巡回系列順序錯誤、曲線追跡、負のプライミングなどの検討を行った。高速で系列的に視覚刺激を提示するとき、提示順序があいまいに知覚される巡回系列順序錯誤は、提示刺激がオーバーラップ処理されているために生ずるためと推定された。そこで、巡回提示文字の提示位置を操作する実験を行った結果、位置固定の有無で差異があることが分かった。更に、視覚的複雑度や音韻情報の影響を漢字を刺激として検討した。音韻情報の利用を制限するため,読みを統一すると,順序錯誤は減少した。視覚情報の利用を制限するため,読みを別々にし,回答を口頭で行わせると,順序錯誤が認められた。これは,順序符号化段階で音韻情報が利用される場合に順序錯誤が生起することを示している。次に、曲線追跡は、同曲線上と判断する時間がプローブ間の曲線に沿った距離にともない増加する現象である。曲線内と曲線間での奥行きの影響を調べ、オ曲線間に奥行き差があるときには処理が促進するが、曲線内に奥行きがあるときは距離に依存して処理時間が遅延することが分かった。無視された先行刺激によって後続刺激の処理が抑制される現象である負のプライミングは,無視刺激による干渉が大きいほど,抑制の効果も大きいことが予想された。無視刺激の文字を回転することが,文字の同定課題で干渉を低減するのに有効であると考え、実験を行った結果,標的が正立,無視刺激が回転文字である場合には,干渉も負のプライミングも消失した。逆に,標的が回転,無視刺激が正立文字である場合には,干渉と負のプライミングの両方が生じた。この結果は,回転文字の無視刺激は文字表象レベルにおいて干渉しないために,文字の同定課題では抑制を受けず,負のプライミングが消失したと説明できる。今後とも、様々な心理現象に着目し、視覚的注意の時空間的特性を総合的に解明するように研究を進める予定である。
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