視覚的注意の時間特性の解明を目指すスクランブル効果と、空間的特性の解明を目指すオブジェクト・ベース効果の検討などを中心に研究を進めた。高速で系列的に視覚刺激を提示するとき、提示刺激の順序があいまいに知覚されるスクランブル効果は、高速系列提示される刺激がオーバーラップ処理されているため、順序錯誤が生ずるためと推定された。そこで、アルファベット文字刺激を使った実験で、その時空間特性を調べた。巡回提示される4文字の刺激集合と提示時間を固定しながら、提示位置を操作する実験を行った。その結果、位置を固定するときと、位置が変化するときで差異があり、順序錯誤の生起は時間的な特性としてではなく、時空間的な問題としてとらえることが重要であることが分かった。視覚的注意のオブジェクト・ベース効果とは、注意を向けた領域の処理の促進効果が、オブジェクトと呼ばれる視覚的単位の内外で変化する現象を指す。そこで、3次元的な曲線オブジェクトを用いることにより、3次元的なオブジェクト・ベース効果が生ずる最適条件を導きだす実験を進めた。オブジェクト内とオブジェクト間での奥行きの影響を調べ、オブジェクト間に奥行き差があるときには処理が促進するが、オブジェクト内に奥行きがあるときは距離に依存して処理時間が遅延することが分かった。こ他にも、負のプライミングにおける刺激の親近性の効果や変化の見落としにおける背景文脈の効果など、視覚的注意の時空間特性に関わる諸現象を調べた。今後とも、様々な心理現象に着目し、視覚的注意の時空間的特性を総合的に解明するように研究を進める予定である。
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