研究概要 |
運動時の呼吸困難感発生要因として,呼吸運動指令(肺換気量,V_Eに比例)の増加,呼吸器系に存在する様々な感覚受容器刺激や呼吸の化学受容器刺激が考えられているが,本研究では呼吸筋の代謝受容器の関わりについて検討した。被験者に軽〜高強度の自転車こぎ運動を行なわせ,その間,呼吸困難度(Borgscaleにて,BS),V_E,呼吸筋のOxy及びDeoxyHb/Mb量(Hb:ヘモグロビン,Mb:ミオグロビン)を測定した。呼吸筋の酸素消費量を変化させる目的で運動中,以下の4呼吸条件を負荷した:空気および40%酸素呼吸(呼吸マスク+呼・吸気孔切り替え弁を介して呼吸),呼吸死腔負荷(呼吸マスク+蛇管を介して呼吸),同無付加(呼吸マスクのみ)。呼吸筋として傍胸骨内肋間筋,前鋸筋(共に吸息筋),外腹斜筋(呼息筋)を選び,吸息,呼息いずれの筋が呼吸困難感発生に関わっているかを調べた。いずれの呼吸条件下においても,BSはV_Eおよび吸息筋のDeoxyHb/Mb量との間で比例関係にあり,OxyHb/Mbや呼息筋とBSとの関係は見られなかった。多変量直線回帰分析の結果,呼吸マスクのみの場合,BS=0.09[ΔV_E]-0.05[吸息筋ΔDeoxyHb/Mb]-1.37(r^2=0.87±0.04,n=7)の関係式が得られ,DeoxyHb/Mb測定部位の吸息筋(傍胸骨内肋間筋と前鋸筋)間では差が見られなかった。呼吸マスクに呼吸弁や蛇管を付加した他の3呼吸条件では,結果は全て呼吸マスク+吸気抵抗負荷条件として統合されうることが判明したので,この場合の関係式は,BS=0.10[ΔV_E]+0.08[吸息筋ΔDeoxyHb/Mb]-2.50(r^2=0.93±0.03,n=7)であった。これらの関係式から以下のことが示唆された。(1)運動時の呼吸困難度は換気量と吸息筋のDeoxyHb/Mb量が関係している。(2)吸気抵抗がない場合は,運動時の呼吸困難度はほとんど換気量に比例する。(3)呼吸筋の動きが制限される場合は(例えば,水泳時の呼吸),吸息筋DeoxyHb/Mbの増加が制限され,換気量が同じであっても,運動時の呼吸困難度は高くなる。(4)吸気抵抗が高くなると(例えば,シュノーケルや呼吸弁を介しての呼吸),吸息筋DeoxyHb/Mbの増加が多きくなり,換気量が同じであっても,運動時の呼吸困難度は増進する。
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