研究概要 |
我々は先行研究において,運動時の呼吸促進が同程度であっても,呼吸筋の酸素消費量が大きい程,呼吸困難感は大きくなるという結果を得たことから,「運動時の呼吸困難発生には呼吸筋の機械的受容器の他に呼吸筋のエネルギー代謝(酸素摂取動態)に関わる代謝受容器が関係している」かもしれないとの仮説を持つに至った。本研究ではこの仮説を検証する目的で,呼吸筋の酸素摂取動態を測定した。実験は,運動時に,(1)高酸素吸入を行い,運動時の呼吸促進(呼吸筋運動)の程度を低下させた場合と,(2)呼気抵抗負荷を課して,逆に呼吸促進を一層高めた場合の2プロトコールから構成されている。本年度は(1)高酸素吸入実験が行われており,以下に現在までの実績を要約する。 男子被験者(n=5)に中強度(最大運動強度の約60%)と高強度(同 約80%)の自転車漕ぎ運動をそれぞれ10分間行わせ,前半6分間は空気または40%O2-N2混合ガスを,後半4分間は吸入ガス種を交換した条件で呼吸をさせた。各運動強度および吸入ガス条件の最後の2分間に,分時換気量,呼吸困難度(Borg法にて),傍胸骨内助間筋,前鋸筋(共に吸息筋),外腹斜筋(呼息筋)の酸素摂取動態(近赤外分光法にて筋内deoxyhemoglobin 濃度(deoxyHb)より評価)を測定した。各運動強度において,分時換気量は空気>O2吸入時であったが,呼吸困難度,3呼吸筋のdeoxyHbは両吸入ガス条件間で有意差はなかった。各吸入ガス条件においては,呼吸困難度は高強度>中強度運動時であったが,分時換気量や吸息筋のdeoxyHbは高強度>中強度運動時,呼息筋のdeoxyHbは高強度=中強度運動時であった。以上の結果から,運動時の呼吸困難増加は分時換気量より呼息筋のdeoxyHbの増加(筋の酸素摂取量の増加)に関連していることが示唆される。
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