研究概要 |
最近MutSミスマッチ結合蛋白を応用して様々な部位に異常があっても高感度に遺伝子異常の有無を検出できることがLishanskiらやWagnerらにより実験的に示されている。そこで、膵癌細胞株と膵癌ならびに慢性膵炎患者よりの膵液よりDNAを抽出した。一方、K-ras exon1、p53のexon5〜8のそれぞれに対するビオチンを標識したプライマーを作成した。PCRにて増幅後、熱変性、再アニーリング処理を行ない、遺伝子異常がある場合は二本鎖heteroduplexが形成されるが,それがない場合は二本鎖homoduplexのみが形成される。ニトロセルロース膜上に固相化したMutS蛋白と反応させ,二本鎖heteroduplexを特異的に認識して結合するというMutS蛋白の性質を利用して,MutS蛋白に特異的に結合した変異を含むミスマッチPCR産物をストレプトアビジンHRPを用いた化学発光(ECL)検出法にて検討した。4つの膵癌細胞株(PANC-1,PaCa-2,BxPC-3,HPAF)のうち、K-rasコドン12のhomozygous mutationsを示すPaCa-2と、K-ras変異のないBxPC-3は、2本鎖DNAが相補的であるため、理論上homoduplexのみしか形成されない。一方、PANC-1,HPAFはheterozygous mutationであるので、heteroduplexを形成すると考えられる。p53変異についても、それぞれの膵癌細胞株において、PANC-1(exon8)、PaCa-2(exon7)、BxPC-3(exon6)、HPAF(exon5)の変異が確認されており、同様な処置により、heteroduplexを形成すると想定される。本法は、K-rasならびにp53変異の偽陽性を示す例が、膵癌細胞株の検討でも20%から25%に認められた。また、膵癌5例ならびに慢性膵炎10例の患者の膵液サンプルを用いて検討したが、膵癌症例ではK-ras変異は4例(80%)に、p53変異は3例(60%)に陽性を示したが、慢性膵炎症例でも高率にK-ras変異が6例(60%)に、p53変異が5例(50%)に陽性と判定され、非特異的反応に問題がみられた。様々な条件設定を工夫したが、擬陽性の原因として、PCR時のmisincorporationあるいは、MutSとの結合反応後の非特異的ビオチンの洗浄除去が完全にできないことがと考えられ、検出法の改良が必要と考えられた。
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