研究概要 |
1%ジメチルニトロサミン(DMN)によりラットおよびビーグル犬で肝硬変モデルを作製した。肝硬変に対するヒト肝細胞増殖因子(HGF)を用いた遺伝子治療を行い,肝組織における線維組織の変化と門脈圧亢進症における門脈圧の変化を検討した。肝動脈経由でnaked HGF DNAを注入する方法を考案し,その遺伝子導入効率およびnaked HGF DNAによる治療効果を判定した。DMNで肝硬変を完成させた後,HGFをラットでは1回投与,ビーグル犬には毎週投与を行った。DMNは遺伝子導入後も引き続き投与した。肝動脈経由でのnaked HGF DNAの導入では,最大発現が投与後7日目から14日目であった。投与後7日目から14日目における肝の病理組織学的評価では,HGF非投与群に比較してHGF投与群では明らかに線維組織が少なく,画像解析装置を用いた肝組織中の線維化率でも優位に減少していた。この結果は既存の肝組織内線維組織が消失したことを示唆するものである。我々は,この線維組織の溶解が,細胞外マトリックスプロテアーゼ(MMP)が発現することにより生じている可能性を見いだした。即ちHGFが最大発現する遺伝子投与後7日目から14日目においてHGF投与群では,MMP-3の強発現を確認した。肝硬変組織の改善が,門脈圧に反映する結果が認められた。HGF遺伝子投与後7日目から14日目において,門脈圧は優位にコントロール群において抑制されていた。肝組織内における線維組織の改善と相関する結果であり,肝硬変に対するHGFを用いた遺伝子治療は,門脈圧亢進症における複雑な血行動態を正常化させる可能性を示すものであり,肝硬変に関係する種々の合併症に対しても有効な治療法となり得ることを期待させる結果である。
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