研究概要 |
本研究はこれまであまり合成研究が行われていなかった5,6員環と縮環した大環状テルペノイドの合成を目的としたもので,主としてシロアリが防御のために噴射する粘液の成分であるトリネルビタン型ジテルペンの合成を検討した結果,平成10、11年度に以下に述べる成果が得られた. 1.(±)-2,6-ジメチルビシクロ[4.3.0]ノナ-1-エン-3,7-ジオン(4-メチル-Hajos-Parrishケトン)にパン酵母還元を用いる速度論的光学分割を行い,トリネルビタン骨格の母体となる(R)-体を光学的にほぼ純粋に合成する方法を確立した.また,反応時間を調節することにより,高純度の(S)-体を得ることにも成功した. 2.上記のジケトンから出発し,トリシクロ[7.5.2.0^<4,16>]ヘキサデカン骨格を有するトリネルビタン型ジテルペンの合成研究を検討した.必要な炭素数および酸素官能基を有する合成中間体を多数合成して,オレフィンメタセシスを含む多くの方法で第三の11員環形成を試みたが,ほとんどの場合不成功に終わった.唯一α-スルフェニルカルバニオンの分子内アルキル化で11員環化合物を得ることができたが,収率が非常に低いため更に検討を続けることとした. 3.ミカン科植物Spathelia glabrescensから単離されたグラブレスコールは,五つのテトラヒドロフラン環が連続して結合した,メソ型の対称構造をもつスクワレン型トリテルペンである.パン酵母還元,不斉エポキシ化,不斉ジヒドロキシ化等を用いて,提出されていた構造をもつ物質を合成したが,天然物とは一致しなかった.NMRスペクトルを検討した結果に基づいて,中央のテトラヒドロフラン環部分の立体構造だけが異なるメソ構造をもつジアステレオマーの一つを合成したが,これも天然物とは一致しなかった.天然物に提出されていた構造が間違いであることは指摘できたが,真の構造を決定するには至らなかった.その後,他のグループにより,グラブレスコールはC_2対称をもつことが明らかにされた.
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