研究概要 |
高周波が振幅変調されていると、組織の電気的性質の非線形性により変調周波数の成分が復調されると考えられる。この仮説に基づき、20Hzで振幅変調した比較的強い高周波電磁界を人体の網膜付近に照射し、20Hzでもっとも鋭敏に知覚される磁気閃光現象と類似の現象が生じないか検討を行った。 1.携帯電話で使用される900MHzの電磁波を,低周波で振幅変調し,眼球付近に照射するための曝露装置を製作し,人体頭部を曝露したときの電力吸収分布とその大きさを,解剖学的構造を考慮した人体モデルを用いて時間領域差分法(FDTD法)に基づく数値解析により推定した. 2.上記の装置を用いて曝露実験を試みた.眼球付近での最大のSARを最大30W/kgとしたが,閃光感覚は知覚されなかった. 3.生体膜の近傍の分子の誘電緩和周波数から900MHzの高周波に対しては分極が追随しない可能性を考え,13.56MHzの曝露装置を製作した.この条件での生体内誘導電界の計算方法を検討し,インピーダンス法がこの周波数でも有効であることを明らかにした. 4.この装置を用いて,13.56MHzにおけるボランティア実験を行った.ループアンテナに流す電流を3.8Aとしたときの網膜付近の電流密度は2.4A/m^2と推定された.SARは約6W/kgである.実験の結果,閃光は知覚されなかった.この周波数帯では全身での吸収が顕著なため,安全面の配慮し,これ以上の高曝露は行わなかった. 5.頭と眼球,および生体膜付近でのドシメトリに基づき,閃光が知覚されないことの考察を行った.生体組織には薄い膜構造が存在する.ここでは薄い膜構造を考え,膜に生じる電位の周波数依存性及び電気定数依存性の考察した.導電率が極端に小さい場合,また周波数がかなり低い場合でなければ,膜に有意に電位が生じないことなどが示され,閃光が知覚されにくい理由の一つが示唆された.
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