研究実績の概要 |
重力レンズ現象とは、遠方天体の像が、観測者と遠方天体の間に位置する質量分布によってゆがめられる一般相対論的な効果である。一般に重力レンズ効果による像のゆがみ具合はわずかなものであるが、統計処理を施すことにより視線方向に位置する質量分布を再構築することが可能である。重力レンズ現象によって再構築された質量分布は、我々の宇宙の組成や膨張史に依存しているために、重力レンズ解析により我々の宇宙の組成や膨張史に制限を与えることができる。 採用第三年度は、重力レンズ解析と多波長観測データの組み合わせにより、重力レンズの単独解析では明らかにできない暗黒物質の素粒子的性質を調査した。この研究では、暗黒物質の素粒子的な性質として、対消滅反応に着目した。実在するガンマ線観測と銀河撮像観測の2種のデータの相関解析を世界で初めて行い、暗黒物質の対消滅可能性を探査した。現行のデータでは有意な相関は見られなかったが、測定結果と理論モデルの比較から、暗黒物質対消滅に関する上限を与えることに成功した。また、将来銀河撮像計画における背景銀河楕円率のデータ蓄積により、期待される暗黒物質対消滅に関する制限は、幅広い暗黒物質質量の範囲で近傍の制限と同等かそれ以上になることを示した。 また、昨年度に引き続き、重力レンズ解析によって再構築される二次元質量密度場(convergence field)に関する統計解析と、その結果得られると期待される宇宙論的な制限についての研究を行った。複数の統計量のモデル化において、先行研究では明らかにされていなかった理論的な不定性の一つであるバリオン物理の影響を、数値シミュレーションを利用して調査した。バリオン物理の影響は、1,000平方度クラスの銀河撮像観測には大きな影響は与えないが、10,000平方度程度の観測では、統計誤差を上回る系統誤差を生じさせる可能性があることを示した。
|