研究概要 |
本研究は,良好な飼料的性質を具備したイネを作出するため,組織培養を介した変異による育種を試みたものである。 イネ(品種:日本晴)完熟種子の胚盤部位よりカルスが誘導され,培養開始28日後には小粒状のカルス塊が多数認められる増殖旺盛で再分化能力の高いエンブリオジェニックカルスが形成された。継代培養後,再分化培地に移植したところ,体細胞不定胚形成を経て89個の順化再生個体を得ることができた。 全再生個体から無作為に53個体を抽出し,野外で生育させた。また,種子由来イネ37個体を対照個体として生育させた。その結果,再生個体群は対照個体群より出穂が遅い傾向にあった。また,再生個体群は穂数が多く,種子全重は小さく,葉部の割合が高く,リグニン濃度が低かった。草丈,乾物収量,乾物消化率および可消化乾物量については両群の間に有意差は見られなかったが,再生個体群の中には,良好な飼料的性状を示す個体が認められた。大半の調査項目について再生個体群は対照個体群に比べて分布の幅が広い傾向にあり,頻度分布も異なっていた。 次年度には,良好な飼料的性質を具備している3再生個体の自殖後代を栽培し,調査を継続した。その結果,自殖後代群は対照個体群に比べ,出穂時期の幅が広かった。自殖後代3系統のうち,1系統は茎葉の可消化乾物量が対照個体群より高く,全ての自殖後代群は対照個体群に比べて変異の幅が広かった。種子全重については,自殖後代群は対照個体群と同等もしくはそれ以下にあった。また大半の調査項目について,自殖後代群は対照個体群に比べて変異の幅が拡大し,頻度分布が異なっていた。各自殖後代群の中には,種子全重が大きく,かつ茎葉の可消化乾物量の多い個体が認められた。また,種子全重は低いが,茎葉部の可消化乾物量が顕著に高い個体も認められた。 以上,本実験で得た再生個体およびその自殖後代において,対照品種「日本晴」より良好な飼料的性質を具備する個体を見出すことが出来た。しかし,それらにおける形質の固定化は未だ不十分であるため,F_2世代以降での育種展開を必要とする。
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