研究概要 |
本研究は,歯周病巣局所において病態の悪化とともに増加する難培養性口腔スピロヘータから菌体表層成分を分離・精製するとともに,樹立したヒト歯肉上皮細胞株に対する細胞活性化について検討したものである.得られた結果は以下の通りである.1.Treponema mediumから温水・フェノール法により粗抽出画分を抽出し,ゲル濾過などにより複合糖質画分を得た.2.T. medium, T. denticolaおよびT. vincentii菌体から外膜タンパク質(OMEs)を抽出した.3.Papillomavirus E6/E7遺伝子の導入により歯肉上皮細胞株(HGEC)を樹立した.同細胞株はTLR2陽性,CD14およびTLR4陰性であった.4.口腔トレポネーマは,HGECにおける明確なNF-kBの活性化とIL-8 mRNAの発現を示した.しかしながら,Treponema denticolaとの共培養では,その上清中にIL-8の産生はみられなかった.5.T. denticolaは,Treponema vincentiiやTreponema mediumとは異なり,HGECから産生されるIL-8を分解する酵素を産生することを明らかにした.6.OMEsは,HGECのNF-kB活性化,IL-8 mRNA発現およびIL-8産生を誘導した.7.これらHGECの活性は,マウス抗ヒトTLR2モノクローナル抗体TL2.1により抑制された.8.T. medium由来複合糖質画分については,HGECに対する活性はみられなかった.以上の結果から,口腔トレポネーマの菌体成分である複合糖質画分には,これまでグラム陰性細菌に存在する内毒素性リポ多糖のような細胞活性画分はみられなかった.他方,同口腔トレポネーマ由来外膜タンパク画分OMEsは,ヒト歯肉上皮細胞HGECのTLR2分子を介して細胞を活性化することを明らかとなり,歯周病巣における口腔トレポネーマ菌体成分の病原因子として重要であると考えられる.
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