研究概要 |
本研究は,我々が最近ウサギより精製しクローニングしたparchorinという蛋白の生理機能を明らかにすることを目的として行った.ParchorinはそのC末端に細胞内塩素イオンチャネルCLICとの相同領域を持ち,種々の組織において,水輸送に関与する細胞特異的に発現していた.たとえば,外分泌腺の導管細胞,毛様体,内耳,尿細管などである.胃酸分泌は離乳の前後で大きく変わることが知られているが,胃粘膜のparchorin含量は,離乳後に大きく増加したが,唾液分泌の変化しないことと対応して唾液腺の含量は変化がなかった.乳腺において,通常の雌では検出できず,妊娠ウサギでは検出され,授乳期で増大していた.すなわち,parchorinの細胞分布と発現量変化は生体の水分移動と密に相関しており,ここに重要な働きをしていることが強く示唆された.その機能発現には,parchorinの細胞質から膜への移行が必要であり,その機構の解明が望まれた.この目的に添うようなモデルとしてMDCK細胞への発現系を構築した.コンフルエントになった細胞をATPやbradykininで刺激すると,細胞質のparchorinはカルシウムとPKC依存性に膜へと移行した.また,カゼインキナーゼIIがparchorinのSer83,338,及び393をリン酸化することを見出した.このリン酸化サイトの欠失変異体の解析により,これら部位のリン酸化は,parchorinの蛋白安定性に寄与していることが明らかとなった.以上のことから,parchorinは水移送の盛んな組織においておそらくは塩素イオン移動を介した調節に重要であり,その存在量調節の一部にカゼインキナーゼIIによるリン酸化が関与していることが推察された.
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