研究概要 |
本年度の研究の目的は,parchorinの機能ドメイン,とくにリン酸化サイトを決定することであった.まず,兎胃粘膜からparchorinをリン酸化する分画を精製し(以下parchorin kinase, PKとよぶ),parchorinを幾つかのフラグメントに分け、PKでリン酸化されるサイトの大まかな位置を決定した。parchorinはPKによりセリンがリン酸化されることが分かっているので,リン酸化されるフラグメントのセリン残基をアラニンに置換する事によってPKによるリン酸化サイトを決定した.すると,リン酸化されるセリンは3つあり,そのうち2つはカゼインキナーゼのコンセンサス配列を持っていた.カゼインキナーゼの生理的意義は不明な点が多いが,その活性は制御されておらず,常にリン酸化活性があるとの報告と,parchorinは休止状態の壁細胞中でも高度にリン酸化されているという我々の結果を考え合わせると,この二つのセリンは恒常的にリン酸化されているものと考えられた.しかし3つ目のセリンは既存のキナーゼのサイトとしては考えられない配列中に存在していたので,新規キナーゼのターゲットである可能性があり,またこの部位のリン酸化がparchorinの生理機能を調節している可能性が考えられた.一方,parchorinをLLCPK1細胞に発現させ,低浸透圧ショックを与えると細胞質から細胞膜に移行するのが観察される.上述のリン酸化サイトをすべてアラニンに変えた変異体を発現させ浸透圧ショックを与えたところ,残念なことに,ワイルドタイプとの差は見られなかった.従って,リン酸化の有無は,少なくとも低浸透圧ショックによるトランスロケーションには関与しないことが示唆された.また,parchorinの機能解析のため,Xenopus Oocyteにおける発現系の立ち上げを行った.種々条件を検討し,現在まで,positive controlとして他のファミリーの塩素イオンチャネルClC-2を発現させてその塩素イオン電流を測定できるようになっている.今後はparchorinおよびその変異体の塩素イオン電流に対する効果を検討する予定である.
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