研究概要 |
3年間を通じ,台北に2回,香港に3回,ソウルに1回調査をおこなった結果,ほぼ3地域の野宿生活者の現状,そして支援政策の内容とその現段階を押さえることができた。調査報告書は,そのときに得られた膨大な聞き取り作業の結果であり,これをもとにして,3地域の支援の効果の高い政策形成へのアドバイスが可能となり,また見習うべき点は日本の施策に反映してきた。同時に日本においても,大阪をベースに,東京や福岡などの支援策の情報交換などもおこなっているので,東アジア各地域の支援策への応用も可能となる基礎を築き上げたといえよう。その点で,3地域の当該問題に関わる,大学やNGOの人々との深い結びつきができたことも,今後の研究や調査の大きな資産となっている。その基盤は,東アジアオルタナティブ地理学会議で,地理学のみならず,建築,都市計画,社会福祉,労働経済関連の研究者や実践家が,東アジアの野宿生活者問題で定期的に,国際会議を持つことで,十全に整備されてきたといえる。3地域の特色を一言で述べれば,台北は,数百人の野宿生活者がおり,ようやく自立支援のシステムが出来上がりつつあるが,ながらく警察行政の管轄にあっただけに,収容主義がかなり強烈にみられた。香港は,キリスト教系のNGOを中心に,入り口から出口までの支援システムが,SoCOという言うNGOのロビーイングや支援システムの提示などで,大学ともうまく連携を取り,1200人以上いた野宿生活者が500人規模まで減少しており,その政策的効果は結構あったと判断される。ソウルでは,IMF危機時,5000人という数の野宿生活者であふれたが,全失露協の自立支援システムの提示があり,キリスト教系のNGOが数多く,このシステムを支えていって,自立支援システムを実践的に構築している点は,日本よりも進んでいた。ただし,浮浪者はまだ完全に収容主義にあり,この点とのかねあいは今後詰めるべき点として残されている。
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