研究概要 |
一般に、飛び火は極めて稀な事象であることから確率的なプロセスとして捉えなければならない.特に,一分散個体が定着に成功するかどうかは,人口学的確率性やアリー効果の存在により大きく左右される.さらに,分散個体の出現速度はローカルな個体群動態によって規定される.これらの側面を適切に組み入れた侵入生物の分布拡大に関するモデルとして,セルオートマトンモデルならびに差分積分モデルの確率論バーションを構築した. ついで,モデルの数学的解析を行うことにより,飛び火的分散が分布パターンの時・空間パターンにどのような影響を与えるかを明らかにし,特に,拡がる速度を飛び火の頻度と飛び火の平均移動距離の関数として表す一般公式を導出した. さらに,上記モデルの応用例として,茨城県で拡がったマツ枯れの感染伝播過程をシミュレートした.即ち,マツ枯れの主因である材センチュウを媒介するマツノマダラカミキリのローカル分散ならびに長距離分散の確率密度分布を導入した.また,分布域の時空間変化は茨城県の平均的なマツ林のブロックをセルの単位としたセルオートマトンの上で評価した.これにより,茨城県全域におけるマツの初期分布や被害の年次変化等の膨大なデータを効率的に組み込んで、マツガレの伝播パターンを再現することに成功した.その結果、茨城県での4km/年にも及ぶ高い伝播速度は、全カミキリ中の10%に満たない長距離分散個体が引き起こしていることが明らかになった.さらに、マツガレ防除が分布拡大速度をどの程度減少させうるかについても詳細な検討を行った。
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