研究概要 |
炎症性サイトカインあるいはapoptosisの制御に重要な役割を果たしているNFkBの抑制は,apoptosisの助長を介して虚血・再灌流傷害の増悪につながるとの自験結果から,NFkB活性化による傷害軽減効果を期待し,IkB antisense遺伝子導入による傷害抑制法の開発に着想した.さらに生体肝移植を行った臨床例において炎症性サイトカインを指標として虚血・再灌流傷害の評価を行った.NFkB活性化の手段としてIkBのmRNAを不活化させるアンチセンス法を採用し,IkB antisense cDNAを発現するアデノウイルスベクター(Adex IkB antisense)を作製した.遺伝子導入法としてCOS-TPC法を用いて,組み換えアデノウイルスを作製した.Adex IkB antisenseを実際にラットに感染させる前にin vitroにて作用発現の有無と力価を確認した.(1)ヒト肝癌細胞Hep-G2(2)ヒト腎癌細胞KU19-20(3)ヒト腎癌細胞Caki-1の各培養細胞に対して20-40MOIのウィルスを感染させた.コントロールとしてAdex β galを用い,経時的にIkB antisense cDNAをRT-PCRで,細胞内IkB量をwestern blot法を用いて,また活性化NF-kB量はgel shift assay法にて測定・比較した.結果,感染2日目でantisense cDNAが細胞内に確認されているにもかかわらずIkB蛋白量の明らかな減少を認めなかった.その理由としてNF-kBに結合したIkBの安定性の問題,antisenseの蛋白合成阻害の不確実性などが考えられた.解決法として細胞内antisenseを定常的に存在させることによりIkB発現を抑えることをねらい,2日毎にAdex IkB antisenseを再感染させ,1週間後にIkBを定員したところ,やはりIkBの蛋白発現を安定して抑えることができなかった.また,NFkB核内活性化蛋白の定量でもNFkBの活性化を証明できなかった.同時に進めていたin vivo(ラット)での肝温虚血再灌流傷害実験でもウィルス感染群はコントロール群に比べ肝障害を軽減することができなかった.今後はRNAi法を用いて検討する予定である.
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