研究概要 |
科学研究費助成を受けた本研究では商取引法をめぐる諸ルールの経済分析を行い,特に総論的・一般的な問題を中心に研究し一定の成果を収めた.第一に,組織・契約の経済学と法的ルールの分析の関係である.近時,経済学においては契約の経済学と呼ばれる領域が盛んに研究されているが,その成果が法律学の経済分析に生かせるかということを考えた.伝統的な経済学による契約の分析の前提が,コストをかけることなく100%完全にエンフォースされるという仮定をおいていたのに対して,契約の経済学は契約の不完備性を前提とする点に特徴があるが,その際,裁判所等の第三者を通じたエンフォースメントが不可能であるといった逆の意味で極端な仮定を置くことになる.その結果,財産権の所有分布を変えることで効率性を達成したりするシナリオが検討される.法律学が前提とする状況は,もう少し中途半端な世界であり,情報も一定の範囲では裁判所に対しても事後的にはverifiableであり,当事者もそれは一定の範囲でそれを期待するというシナリオではないかと思われる.このような契約の経済学と法律学の連続不連続については,「契約・組織の経済学と法律学」という題名の論文で検討した. 次に,契約当事者間の情報の偏在をめぐって,特に私的情報を有している当事者が情報を秘匿する自由に焦点を当てた研究発表を行った.ここでは,情報が開示されることのメリットと,当事者の情報収集インセンティブとの関係についてかなり立ち入った検討を行うと同時に当事者に情報を開示させるためのさまざまな仕組みの設計の仕方についても考察した.この成果も「取引前の情報開示と法的ルール」という題名で公表した.
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