研究概要 |
ソシオン(socion=socio+neuron)は、信-不信の結合強度(荷重)を学習する社会的ネットワークの結び目・変換素子として個人や集団をとらえるわれわれの造語である。ソシオンのコミュニケーションにおいて、「情報」は,「メッセージ」と「荷重」の積(情報=メッセージ×荷重)で定義される。荷重(semio-weight)は,出来事を受け止めるに際して必要な「予期ポテンシャル」の強度で、メッセージの「リアリティ」を決定する。ソシオンは,コミュニケーションを通じて結合強度(荷重)を学習し、社会ネットワーク自己組織化する。 14年度はパーソナルなネットワークにおけるソシオン・コミュニケーションの理論的な問題を整理・検討した。その成果は、「ソシオンのネットワークと鏡像のコミュニケーション-密告・盗聴のモードをふくむ会話のマトリックス」として公刊された。1人称(ワタシ)、2人称(アナタ)、3人称(カレ)のネットワークに、「ダレカ」という不特定な他者、いわば「4人称」を加えることによって、「多重媒介モデル」のあたらしい展開が図られた。密告や盗聴といった負性の問題を、コミュニケーション理論として真正面から扱う見通しが得られたことが重要な成果である。今後、社会主義社会における粛清のメカニズムの解明をすすめるとともに、われわれの社会でも重要なテーマとなりつつあるプライバシー問題等への応用を図っていきたい。 社会的コミュニケーションにおけるリアリティの多重媒介モデルの理論的定式化を試みる過程で、荷重コミュニケーションの多重媒介モデルが、複数のマス・メディアによる「世論形成」の記述・分析に応用できることがあきらかになった。15年度は,とりあえずの応用編として、新聞メディアにおける荷重報道の比較研究を試みた。対象として、北朝鮮による「日本人拉致」問題に対する4大新聞の荷重報道を選び、2002年9月17日小泉訪朝を挟んだ1か月間、朝日,産経,毎日,読売の各紙がどのような「見出し」内容と形式で「拉致」問題を報道したかを比較分析した.大学院生の意欲的な参画によって、新聞メディアにおけるメッセージ荷重のあり方をグラフィックに表現する新しい手法(報道荷重の「セミオグラフ」)を開発することができた。成果の一部は一般雑誌『諸君』(6月号)に発表された。 メディアが一群の出来事のなかから一定の出来事を選択する時,背後にどのような選択メカニズムが働くのか,またその選択した出来事の重要性をどのように表現するのか,今後さらに理論的・実証的探求を深めていきたい。また,マルチエージェント・システムによるソシオン・ネットワークの信頼学習シミュレーションについても現在研究を継続中である.
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