研究課題
基盤研究(C)
本科学研究費補助金の研究目的は、西欧中世における慣習法文書の史料的性格を再検討するものであった。慣習法文書は西欧中世における都市・農村の多様な性格を知るための貴重な史料であるが、同時代の人々にとっての意味、どの層の利益に関わる文書であるかは、長い論争の対象となっている。平成14年度においては、史料・文献収集をベルギー・王立図書館、リエージュ大学図書館で行い、慣習法文書の研究動向を整理した。慣習法文書をめぐっての研究をたどると、共同体説が古典的学説として後退し、領主の利益を強調する方向に傾いてきているが、特に20世紀第三四半期に開催された「自由と権力」と題した諸学会ではその傾向が極めて強くなっている。申請者は研究動向と平行して、現ベルギー南部のエノー伯領を対象として慣習法文書の具体的分析を行ったが、そこから得た結論は、領主権力を一義的に強調すべきではないということである。慣習法文書は領主によって起草された文書であるが故に、その文言に領主の利益が表現されることは自然であるが、領主が所領民との関係の文書化した背景には、そのような手段を領主にとらせた所領民の力が働いていたと考えられる。中世社会における対立と協調関係を捉え直す必要がると思われる。平成15/16年度においては、従来の慣習法文書研究が依然として領主と農村共同体に関わる文書という見方にとどまっている点に焦点をあて、エノー伯領の首邑モンスの特権の分析を行い、慣習法文書が都市・農村の区別なく、かつ長い時間にわたっての運動として捉える必要がある点を指摘した。今後の作業として、共同体を構成する多様な層の利害の究明が課題となろう。
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明治大学人文科学研究所紀要 58冊(未定)
Images of Medieval Europe. (Y.Fujii, H.Takita(ed.))(Kyushu University Press)
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明治大学人文科学研究所紀要 52
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Journal of the Institute of Humanities (Meiji University) t.53
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ICV「アジア文化研究」 11
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Asian Cultural Studies(ICU), Special Issue 11