研究概要 |
本研究では超細粒鋼を用いて,結晶方位との関連からナノレベルでのすべり変形観察結果をもとに疲労き裂の発生及び伝ぱ挙動を検討した.その結果,圧延面には巨視的には100面が優先配向するものの,き裂発生域近傍では101面に優先配向した結晶のコロニーが存在しすることがわかった.この領域では,[111]方向に対する32個のすべり系が活動しており,最も大きなシュミット因子は{321}<111>および{132}<111>で0.412となった.これらのすべりは,試料表面において,荷重軸に対して70.5度となり,実験的に観察されるすべり線の角度と良く一致した.細粒鋼においては,32個の複数のすべり系による交差すべりが重要な役割を果たすことを明らかにした.次いで,微小疲労き裂の伝ぱ挙動について,き裂伝ぱ方向およびき裂先端近傍のすべり変形の観点から微小疲労き裂の伝ぱ機構について検討した.疲労き裂近傍の特異応力場を考慮して,平滑材のシュミット因子に対応するすべり易さの影響を表わすすべり因子を提案した.超細粒鋼では,き裂分岐によるき裂伝ぱ抵抗の増大が特徴であり,その分岐のメカニズムについて検討した.疲労き裂の分岐は,結晶粒内および結晶粒界いずれでも発生し,その頻度は同程度であった.分岐き裂は,疲労き裂先端でのすべり因子が最大となる方向に伝ぱすることがわかった.結晶粒内の分岐き裂では,複数のすべり系が存在し,これらが試料表面上で同一角度のすべり線上にある場合で,すべり方向が試料表面内である結晶粒で分岐が発生することを明らかにした.
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