研究概要 |
波浪推算を高精度に行うためには,気流からの風波へのエネルギー供給項および砕波や乱れによるエネルギー逸散項を精度よく評価する必要がある.しかしながら,エネルギー供給項や非線形エネルギー輸送項に比べて,エネルギー逸散項に関する研究はあまり進んでおらず,Hasselman(1974)による白波砕波モデルとPhillips(1985)による擬似飽和モデルがあるに過ぎない.エネルギー逸散項をモデル化するにあたって,波高と周期との間に鳥羽の3/2乗則がほぼ成立すること,および風波のスペクトルには平衡領域が存在し,その領域ではエネルギー供給項,非線形項およびエネルギー逸散項がバランスしている事実を上手く利用することである.また,風波下の乱流にも相似構造が存在し,それを実験を通して具体的に調べ,エネルギー逸散スペクトルのモデル化等に活用することである. 本研究では,まず風波による気流の変動特性を測定し,その特性を明らかにすると共にエネルギー供給量やそれに重要な役割を果たす海面抵抗係数の波齢および波形勾配との関係を調べた.また,小型超音波流速計を用いて風波下の流速場を測定し,乱れの相似構造を詳細に調べた.さらに,これらの結果とこれまでの平衡スペクトルの存在および飽和度の考えを応用して,新たなエネルギー逸散スペクトルのモデル化を行った.本モデルでは,エネルギー逸散率が流速成分の3乗に比例するという仮定の下に,新たに定義した飽和度を用いてエネルギー逸散スペクトルを評価したところ,それは方向スペクトルの3/2乗に比例し,波齢の逆数の関数として表されることが示された.また,平衡領域におけるエネルギー逸散スペクトルは,周波数の-3乗および海面摩擦速度の3乗に比例し,波齢の逆数の関数となることが理論的に示された.
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