研究概要 |
ネパールなど他のヒマラヤと比較すると,森林政策史をはじめとする環境史研究の蓄積がブータンでは弱いため,本研究ではとくにブータンとその周辺地域の開発・環境政策プロセスを中心に,基礎的な情報整理と分析の作業を行なった. 1:まず,マクロ的な歴史・地理的状況把握のため,英領インド期に史料によりつつ,ブータンとその周辺地域の歴史的な開発プロセスについて,とくにこの地域へ流入したネパール系民族が果たした役割に注意しつつ,各州(国)・県ごとの情報を整理した.統計資料についても,GISシステムにより地図表現が可能なものとした. 2:『ブータン国会議事及び決議録』と,週間新聞『KUENSEL』誌バックナンバーにより,1950年代以降のブータン国内の環境政策に関する,情報データベースを構築した. 3:ブータン政府から得られるごく近年の土地利用や農業センサスのデータについては,GISシステムにより地図表現が可能なものに構築しつつあるが,この作業はまだ完了してはいない. 以上の作業により,ブータンをはじめとする東部ヒマラヤの人間地生態史像の確立を図るうえでは,英領インド政府や現ブータン政府による諸政策だけでなく,19世紀半ば以降この地域へ流入したネパール系民族の役割についての検討が必要不可欠であることが判明した.人口・土地・森林などに関わる環境諸政策が,彼らがインド・ネパールへ逃れることで顕在化した現在のブータン難民問題発生の背景にある重要な側面であったことも確認でき始めている.
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