研究概要 |
(目的)ヒト側頭骨内の骨芽細胞や破骨細胞の詳細な分布に関する病理組織学的な研究を行った.両細胞の鼓室および乳突蜂巣での分布を成長時期別および部位別に詳細に観察し評価した.また側頭骨標本作成において,形態学的な変化が最小と言われるセロイジン包埋標本に対して免疫組織科学的手法の可能性に対して評価を行った. (対象)福島県立医科大学医学部耳鼻咽喉科学講座で保有するヒト側頭骨標本のうち,胎生30週から29才までの63耳. (方法)出生前を胎児群,15才未満を小児群,15才以上を成人群と分類し,側頭骨の各部位の中耳腔側と骨髄側でそれぞれ骨芽細胞と破骨細胞の出現頻度について観察した. 免疫組織化学実験としてセロイジン包埋された側頭骨標本に対してMethanol,トリプシン,ペプシン,マイクロ波照射等の抗原腐賦活化処理を行い,白血球分化抗原のうちマクロファージ抗原であるCD68の他,予備実験としてPCNA, p53等の抗体を用いて免疫染色を試みた. (結果)(1)成長時期別にみると,両細胞の出現頻度は胎児群と小児群が成人群に比べ有意に高かった.(2)観察部位別にみると乳突蜂巣が他の部位に比べ両細胞の出現頻度が高い傾向を示した。また中耳腔側では破骨細胞が,骨髄側では骨芽細胞が優位に出現した.(3)HE染色で観察された破骨細胞はCD68によく染色された.(4)別途作成したヒト乳ガンセロイジン標本ではPCNAはある程度の染色性を保ったが,その他の抗体はあらゆる賦活処理を施したが,抗原性は消失すると考えられた. (結論)成長時期別にみると15歳以降の標本では両細胞はほとんど観察されず,形態の維持の時期に移行していると考えられた.また部位別にみると特に乳突蜂巣では活発な骨形成や骨吸収が繰り返されている可能性が示唆され,主に中耳腔側では骨吸収が、骨髄腔側では骨形成が繰り返され中耳腔が拡大する様式が推測された.白血球分化抗原のうちCD68はセロイジン標本での免疫染色に適すると考えられた.
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