研究概要 |
全体論の立場から中学校1年の代数的内容の単元をデザインするための理論を構築し,正負の数の加減,乗除,文字と式の単元を現場の中学校教師と共同で開発し,実証的に検討した。 まず,算数から数学への移行に関する理論を学会誌に発表した。そこでは作図を事例として,算数での認識と中学校数学での認識の間に,移行期に相当する活動を適切に想定することによって,算数から数学への移行が成し遂げられ得ることを明らかにした。続いて,正負の数の加減の単元を事例として,全体論の視座からの単元構成のあり方について明らかにし,学会誌に発表した。そこでは教授学的状況論における行為の状況,定式化の状況,妥当化の状況という3つの状況に,代数的思考のサイクルの視点を加味することによって,全体論的に単元が構成されうることを明確にした。 次に,数学教育の国際会議において,中学校の代数的内容に繋がりうる,算数における小数の除法の理解過程の様相について発表を行った。ここでは小数の除法の理解を阻害するミスコンセプションが,逆と相反という2種類の可逆的思考の統合によって克服され,またその過程で中学校数学の認識へと思考様式が転化しうることを明らかにした。 さらに,正負の数の乗除と文字と式に関する単元開発を行い,算数の式から代数の式への接続プロセスの様相について学会で発表した。ここでは総合式を作り,分析するという視点から構想された学習活動の中で,式に関する重要なアイデアが生じ,それが数学的に高まる過程において,式が構造的に認識されるようになることを明らかにした。また,正負の乗除の単元で培われる認識を引き継ぎ,高めるような文字と式の単元構成のあり方について検討し,基本的な活動形態を明らかにした。
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