研究概要 |
シロイヌナズナのSHEPHERD(SHD)遺伝子がコードするGRP94は小胞体局在型のHSP90類似タンパク質である。一方、植物ゲノムにはペプチド性因子や受容体キナーゼの遺伝子が多数存在し、その一つであるCLV3ペプチドとCLV1/CLV2受容体はその機能発現にSHDタンパク質を必要とすることがわかっている。では、SHDのクライアントになるのはCLV1,2,3のいずれであるのか、また、CLV以外のペプチド性因子や受容体の中にもSHDを機能発現に必要とする因子があるのか、解析を行った。 (1)SHDのクライアントであるCLV分子の同定 CLV1,2,3遺伝子のプロモーター領域にSHDのcDNAクローンをつないでshd-1突然変異体に導入した。その結果、CLV3プロモーターで発現させると表現型が最もよく回復した。また、CLV3-GFPタンパク質を発現するシロイヌナズナの培養細胞の細胞内では、ごく微量ながら、SHDタンパク質にCLV3-GFPタンパク質が結合していることがCLV3抗体を用いた実験で確かめられた。以上より、少なくともCLV3がSHDタンパク質のクライアントであることが明らかになった。 (2)機能発現にSHDを必要とするペプチド性因子の探索 CLV3以外にもSHDを必要とする因子があるかどうか検討するため、さまざまなペプチド性因子をshd-1突然変異体のバックグラウンドで過剰発現させ、その効果が表現型に現れるかどうかを観察した。その結果、少なくとも3個のペプチド性因子について、過剰発現の効果がshd-1突然変異体では抑制されていた。この結果は、CLV3以外にもSHDを機能発現に必要とするペプチド性因子または受容体が存在することを示唆している。 (3)花粉表層構造の形成におけるSHDの役割 shd突然変異体では、本来網目状である表層の構造が崩れ、しわが寄ったような構造を示す。透過型電子顕微鏡で花粉の形成過程を追って表層構造の発達の様子を観察したところ、エキシンの発達やポレンコートの蓄積に異常が見られた。SHDは花粉表層の成分を供給するタペート細胞の機能にも重要な役割を果たしていることがわかった。
|