研究課題
基盤研究(S)
極微量重差分化法の基盤となる技術の開発に成功し特許も申請した。この技術においてはチャムRNA(Chum-RNA)、別名ダミーRNA、と命名した独自の小さなRNA分子が中心となる。具体的にはチャムRNAを反応液に加えるだけで酵素のKm値を上昇させることができるため、極微量のサンプルから調製したmRNAを用いても逆転写酵素やDNAリガーゼなどを働かせる事ができた。実際、一個のヒト培養細胞(HeLa)相当分の全RNAを用いた場合でさえ、以後の酵素反応に十分な量のmRNAが、PCRを全く使うことなくT7RNAポリメラーゼを用いるだけで増幅できた。この確認はGAPDHのcDNAを検出する事で行った。一方、試験管内で生合成したGAPDH mRNAを用いた場合には、0.49フェムトグラム(730mRNA分子数に相当する)という、極微量のmRNAを用いたときにさえ逆転写反応が開始した。T7RNAポリメラーゼによる増幅の利点は、多様なmRNA分子種が偏在無く増幅される事だが、実際、このようにして一個の細胞由来のRNA(チャムRNA付加)、あるいは約100万個の細胞由来のRNA、を用いて増幅したmRNAをバイオアナライザーにかけてサイズ分布を比較したところ、ほとんど差異のない分布図が得られた。この実験により、一回の増幅プロトコールにより、約30倍の増幅が進んでいることが分かった。この手法を基盤にして、一個の細胞由来のRNAを用いて、PCRを全く使うことなく高品質のcDNAライブラリーを作製するプロトコールを開発し、4回増幅後に66万個の独立cDNAクローンを持つcDNAライブラリーを作成した。その品質を約100万個の細胞由来のRNA、を用いて作成したcDNAライブラリーとマイクロアレイを用いて比較したところ両者同等に高品質であった。この他、当該研究テーマに関する多くの応用研究を進めた。
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