研究概要 |
本研究はコケ植物の分類体系について,形態・解剖学からの比較形態学的見地ならびに分子情報から再検討を加え,より妥当な体系の構築を目的に実施されたものである.形態・解剖学的アプローチとして,コケ植物の配偶体体制の骨格を形成する始原細胞である頂端細胞の形態の多様性に着目しながら,大綱分類群との対比を行った.フタマタゴケ亜自の分子系統学的研究を重点的に推進し,同亜目内の4科(Aneuraceae, Metzgeriaceae, Mizutaniaceae, Vandiemeniaceae)の系統関係を明らかにした.Metzgeriineaeは単系統群であることが強く示唆された(Mizutaniaceaeを除く).Mizutaniaceaeはウロコゴケ目ウロコゴケ亜科のツキヌケゴケ科Calypogeiaceaeの中に位置づけられ,苔類の系統関係を議論する上で注目すべき情報を提供した.さらに,Metzgeriaceaeは単系統群としてまとまったが,一方Aneuraceaeは多系統群となった.VandiemeniaceaeはMetzgeriaceaeの姉妹群となったことや形態観察の結果から,特に独立した科を立てる意義は認められなかった.スジゴケ科のヤワラゴケ属LobatiriccardiaとAneura属はそれぞれ単系統性が明らかになり,姉妹関係に置かれた.この系統関係から,Furuki(1991)が提案したLobatiriccardiaを独立した属と認めるという分類学的な扱いは妥当なものと結論した.頂端分裂細胞の形態との関係については,フタマタゴケ亜目では斉一的にレンズ型のものであって,とくに分子系統樹から得られた大綱分類群に投影された形質であることが確認された.このほか配偶体のみならず胞子体レベルを含む種々の視点や分類群を用いて,蘇苔頚の系統に関わる研究を広く展開した.
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