研究概要 |
Wilson病は銅の移送障害のため余剰銅が種々の臓器に沈着し様々臨床症状を呈する常染色体劣性遺伝性疾患である。本疾患に関する遺伝子型臨床型関連については、一定の臨床型を呈する特定の遺伝子変異は存在しないとされてきたが、我々は新たに、変異により生じる蛋白構造変化と臨床型関連につき着目し、2つの疾患起因性変異の内少なくとも1つがmissense変異の群(missense型:M型)と変異2個両方ともがtruncated proteinとなるようなinsertion, deletion, splice site変異、nonsense変異からなる群(truncated型:T型)の2群に分類し臨床型と検討した。Wilson病45家系51人の内、遺伝子型(M型、T型)を同定できた42症例を対象とし、遺伝子型と劇症肝不全との関連を検討したところ有意にT型で劇症肝不全の発症率が高かった。また長期経過観察可能であった20例を対象とし、キレート剤投与の有用性につき検討したところ、T型ではキレート剤投与中にもかかわらずALTの異常高値をきたす割合が高い傾向があり、肝不全に至る症例も認めた。なお、キレート剤投与中に新たに神経系の病変が出現した症例は認めなかった。以上よりT型の症例ではキレート剤投与中であっても、肝の炎症を完全に制御できない症例の比率が高い傾向にあると考えられ、M型に比較してより注意深い経過観察が必要と考えられる。その上で疾患の進展を認めた場合は積極的に肝移植を考慮する必要があると思われた。
|