研究概要 |
特発性肺線維症は,慢性間質性肺炎のなかで難治性疾患として位置づけられている。しばしば呼吸器感染症を契機に炎症反応が急性増悪し致死的経過をとる。急性増悪した際の病理所見はびまん性肺胞障害であり,分子病態学的にはTNF-α等の生理的活性物質亢進に基づく生体反応である。したがって,TNF-αによって惹起される炎症拡大を抑制できるならば,本疾患による致死率を低下させ得る。炎症細胞でのTNF-αの発現は,細胞表面に発現したToll-like receptor(TLR)に菌体成分が結合し,そのシグナルが細胞内へ伝達されることによって亢進される。一方,肺サーファクタント蛋白質であるSP-Aには,抗炎症作用があることが知られている。H15年度は,SP-Aがブドウ球菌由来peptidoglican(PGN)による細胞応答を変調させうるかについて検討した。PGNは肺胞マクロファージ上のTLR2と結合し,TNF-α産生を亢進させた。SP-AはTLR2と直接結合し,このreceptorをPGNと競合し奪い合うかたちでTNF-α産生亢進を相殺した。したがって,SP-Aには,TLRを介する炎症の拡大を抑制する作用があることが示唆された。H16年度はマイコプラズマについて検討した。菌培養液中に添加されたSP-Aは濃度依存性に、コロニー形成、菌体によるthymidineの取り込みを抑制し、SP-Aには菌の増殖抑制作用のあることが示された。また,マイコプラズマ菌体成分lipoproteinは,ヒト単球由来の細胞株U937によるTNF-αとNOの産生を濃度依存性に亢進させ,さらにこの細胞応答がSP-A添加によって濃度依存性に増強されることが示された。したがって,lipoproteinがマイコプラズマ肺炎の炎症惹起物質であること,SP-Aがその変調因子であることが示唆された。また,TLR2 cDNAをtransfectしたHEK293細胞はlipoproteinに対してNFk-Bの活性化を惹起し,さらにマイコプラズマ感染の宿主細胞による認識はTLR2とCD14が受容体として関与していることが示唆された。今回の検討結果は,SP-Aが慢性間質性肺炎の急性増悪予防薬になりうることを示している。
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