研究概要 |
神経芽腫におけるBMPシグナル伝達を介した分子機構の解析を行った。解析に用いた神経芽腫細胞はSH-SY5Y,RTBM1,LA-N-5,SK-N-ASおよびIMR-32であり、BMPレセプターの発現が認められた細胞である。各細胞を1nM BMP2処理すると、BMPシグナル伝達分子の一つ、Smad1/5のリン酸化が処理後30分で顕著に認められた。このことから、神経芽腫におけるBMP2シグナル伝達経路の存在が示唆された。BMP2処理による細胞の増殖速度は解析したすべての細胞において抑制されたが、神経突起の伸長はSH-SY5Y,RTBM1およびLA-N-5において認められた。BMP2処理によってCDKインヒビターの一つ、p27^<KIP1>の発現がすべての細胞で誘導されたことから、細胞増殖抑制はp27^<KIP1>に起因すると考えられる。1p35にマップされるDANはBMPに対する阻害因子として機能することから、BMP2による神経芽腫細胞(RTBM1)の分化誘導過程におけるDANの発現を検討した。その結果、BMP2処理によってDAN発現の減少が認められた。さらに、DANの発現を転写レベルで制御しているp73発現においてもBMP2処理により減少することが判った。従って、BMPシグナルはp73の発現を抑制し、そのターゲットであるDANを介して制御されるというフィードバック機構の可能性が示唆された。神経芽腫では機能喪失を伴うp53の変異は極めて稀であるが、SK-N-ASでは、分子量が野生型p53より小さいp53が細胞質に局在することを見い出した。p53のC末端を認識する抗体は、SK-N-ASのp53を検出できないことから、このp53は核移行配列を含むC末端を欠損している可能性が示唆された。野生型p53を持つSH-SY5Yでは、シスプラチンに応答してp53の安定化およびその標的遺伝子であるp21^<WAF1>,BAXの発現昂進を伴うアポトーシスに誘導が観察された。一方、シスプラチン処理したSK-N-ASはG2/M期で停止しアポトーシスに陥らなかった。SK-N-ASでは、シスプラチンによるp21^<WAF1>発現誘導は認められるものの、p53の安定化およびBAXの発現昂進は検出されなかった。従って、SK-N-ASの薬剤耐性はp53の構造異常に起因すると考えられた。
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