研究概要 |
急速な高齢社会を迎え,歯科からの支援内容が時代のニードに併せて大きく変化をしている.介護保険制度においては新予防給付(口腔の機能向上)が導入されているが,口腔の機能向上に関係する,加齢変化と嚥下機能減退に関するデータはまだ少ないのが実際である.我々は,加齢変化による唾液の分泌量および性状が,どのように嚥下機能に影響を及ぼすか検討を行った. 本研究について説明をし,同意が得られたボランティアを対象とした.若年群として学生ボランティア118名(男性59名,女性59名:平均20.4歳),高齢者群として特別養護老人ホーム入居者の33名(男性15名,女性18名:平均69.7歳,要介護度2〜4)を用いた.評価項目は唾液に関しては唾液分泌量(刺激唾液),口腔乾燥度(MUCUS^<【○!R】>(株)ヨシダ社製使用),唾液粘稠度(NEVA METER^<【○!R】>(株)石川鉄工所社製使用)を用い,嚥下の評価には反復唾液嚥下テスト(RSST),超音波エコー装置(SonoSite^<【○!R】>180II 0LYMPUS社製)を用いた.また得られた結果から統計処理を行った. ガム咀嚼を行った際の唾液分泌量は4.0±2.5ml/min(若年者)に対して,2.7±1.7ml(高齢者)であった.安静時の口腔乾燥度は28.0±1.3(若年者)に対して,24.6±3.8(高齢者)であった.また刺激唾液の唾液粘稠度は2.27±0.56mm(若年者)に対して,2.53±0.98ml(高齢者)でp<0.05で有意差があった.反復唾液嚥下テストは5.0±2.4回/30sec.(若年者)に対して,3.4±1.2回/30sec.(高齢者)であった.超音波エコー装置では高齢者群で舌の平坦化(舌背面の陥凹深度の低下)が観察された. 唾液には多くの作用があることは知られているが,嚥下運動との関連性を求めたものは少ない.今回,唾液に関して,分泌量は高齢者群の方が少なかった,刺激時唾液に関して,高齢者は健常成人とほぼ同程度との報告があるが,対象者はすべて常時服薬があるため服薬の影響も少なくはないと思われる.粘稠度に関しては,若年者より高齢者群の方が有意に高かったが,これは前述の刺激唾液の分泌量が少ないため粘稠性が高くなった結果と推測される,粘稠性が上昇する事により,嚥下運動のように口腔の前方から後方へと移動させる際に,物理的な運動量が増加すると想像される.実際にRSSTのように嚥下運動の評価を行う際には高齢者群の方が減少していた.したがって高齢者の嚥下障害を考える上で,唾液の量ならびに性状が重要である事が示唆された.
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