研究概要 |
本研究の目的は,産業集積地域(産業クラスター)における,中小企業を主体とする産学官連携の実態を,現地調査と地域間比較を通じて実証的に解明することである. 産業クラスター理論は,価値連鎖から産業集積を捉えること可能とする一方で,実証研究では地域概念(定義とその範囲)が曖昧であり,適用が難しい.日本における産学官連携は,科学技術計画を1つの画期とし,2000年代に入って本格化する.TLO法成立を通じて文科省と経産省の急接近によって加速化され,前者が「学」をめぐる独自の問題を抱えながらも,後者の規制緩和路線に追随するかたちで急展開する.なかでも,特許をめぐる規制緩和と競争的資金制度の導入が産学官連携を促進した.限られた経営資源の中小企業では,イノベーション競争に対処するために,連携支援策の整備に伴って外部資源との連携を求める企業が増える一方で,連携は量的にも質的にもまだまだ限定的である. 3つの事例地域(山形県米沢市,長野県茅野市,東大阪市)すでに中堅企業レベルでいくつかの成功事例が生み出されている一方で,小・零細な企業群にまで広がっていない.他方で,産業集積地域における産業支援,中小企業の各種のネットワークの発展を反映して,独自の産学官連携の展開が見られる.なかでも,公的な支援機関による取り組みの違いが地域的な差異を創り出している.その傾向は,小・零細企業群おいて顕著である.ただし,この後者の階層における実践例では,1990年代から試作開発型受註や多品種少量型受註へと転換した企業における産学官連携の展開が進みつつある一方で,従来の下請型受註の企業ではほとんど展開が見られなかった.
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