| 研究概要 |
本研究ではガス状化学物質の中でも近年電子部品洗浄剤として需要が高いものの,その中枢神経への影響については未だ不明な点が多い1-プロモプロパン(1-BP)の中枢神経系への影響をin vitroならびに曝露モデル動物を用いたin vivoの実験系より検討した。
1-BPの直接作用ではGABA_A受容体機能を増強する一方でnACh受容体機能を抑制し,さらに海馬反回抑制を増強したことから麻酔作用が示唆された。成獣ラットを用いた亜慢性吸入曝露モデルからは海馬反回抑制の減弱=脱抑制という直接作用とは相反する作用が認められ,さらにGABA_A受容体のβ3およびδサブユニットmRNA発現量の減少が判明した。このように直接作用が認められた受容体に対して亜慢性曝露ではその遺伝子発現に影響を及ぼす可能性が示唆されたことは興味深い結果である。さらに曝露ラットの脳内臭素イオン濃度の経時変化を推定するコンパートメントモデルを作成し,実験で得られた中枢神経毒性(死亡および脱抑制の出現)と合わせたところ,1-BP曝露による中枢神経系の異常を推定する指標を確立できる可能性が示唆された。
また1-BPの細胞内シグナル伝達系への影響として,PKA-CREBを介した脳由来神経栄養因子(BDNF)の遺伝子発現,NF-κBを介したアポトーシス防御因子Bc1-xLの遺伝子発現に対する抑制作用がin vitroならびにin vivoの系から認められた。
本研究はガス状化学物質の中枢神経学的影響をin vitroでのスクリーニング的検討から曝露モデル動物を用いたin vivoでの検討までを合わせて体系的・総合的に評価し,中枢神経系に対する危険水準を想定する指標を確立できる可能性を示したプロトタイプともいえる研究である。今後1-BP以外の化学物質についての検討や新たなアプローチの導入などによりさらに発展させていきたいと考えている。
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