研究概要 |
われわれは、前報(Mitsui T, Shimaoka K, Hepatogastroenterology 2006;53:82-85)において、小腸細菌増殖(Small bowel bacterial overgrowth, SBBO)は、比較的健康な高齢者にはみられず、身体に障害があり介護が必要な施設高齢者にみられ、SBBO陽性者の約半数がBMI18.5以下の体重不足であることを報告した。これまでも、多くの論文や総説により、SBBOが原因と思われる栄養素の吸収低下による体重の減少、慢性下痢、脂肪便が報告されている。さらに、最近、SBBO陽性者の骨密度低下も報告されている(Di Stefano et al1. Dig Dis Sci 2001, Stotzer et al. Hepatogastroenterology 2003)が、いずれも比較的若い胃切除者や慢性の消化器疾患者を対象としている。したがって、高齢者におけるSBBOが骨密度に与える影響については不明であり、検討の必要がある。今回、健康な高齢者17人(m4, f13, 80.8±1.1歳)と要介護者(m12, f21, 80.6±1.1歳)を対象とし、骨密度は二重X線吸収法(DEXA)を用いて腰椎と大腿部を測定し、SBBO、身体活動量、食事調査は前回と同様に評価した。結果、腰椎では、健常高齢者、要介護SBBO陰性者、要介護SBBO陽性者とも70%以上が骨棘や圧迫骨折などの損傷をもち、骨密度にも有意差は見られなかった。一方、大腿骨の年齢相対値(Zスコア)は、健常者0.9と比較して、SBBO陰性者では-0.5(P<0.01)とSBBO陽性者-0.1(P<0.05)と有意に低かった。要介護者内においては、SBBOによる有意差は見られなかった。これらの結果は、70歳をこえる高齢者では、SBBOは骨密度に、顕著な影響を与えないことを示唆する。骨密度の決定因子は極めて複雑であり、80歳近くになると、多くの健常者が腰椎に損傷を持つ。一方、要介護者高齢者における大腿骨密度低下は、きわめて低い身体活動量が原因であると推測される。
|