研究実績の概要 |
本年度はビームラインの計画遅延から極小磁場におけるミューオニウム(Mu)超微細構造(HFS)の精密測定を行い、下記のような成果A,B,Cを得た。また、磁力計の開発を行い、成果Dを得た。これらの成果は1.135 T磁場での分光に応用可能である。 A. Kr標的圧力0.3 atmでの分光成功:Mu大量生成のためのKr標的中のKr原子とMuの衝突は測定周波数をシフトするため、精度の高い実験のためには低圧力での測定が必要である。標的圧力の低下に伴い、入射ミューオンを効率良く標的に止めることは困難となる。本年度は前年度成功した0.4-1.0 atmでの測定に加え、0.3 atmでも測定に成功した。これらの結果は先行実験より低い圧力での貴重なデータとなるだけでなく、混合気体を用いた分光実験が可能であることを示す結果である。 B. old muonium法による解析:Muへのマイクロ波照射時間を考慮した解析により、同じデータからでもより精度よく共鳴周波数を決定することに成功した。これは本研究が用いるJ-PARCの高強度パルスビームの特性を最大限活かした解析であり、今後のパルスビームを用いたMuHFSの精密測定に置いてマイルストーンとなる結果である。 C. 混合気体を用いた測定:2019年3月に行った測定ではKr:He=4:6の混合気体を用いて測定を行った。この混合気体では衝突シフトの軽減が予想され、実験中の簡易な解析では混合気体を用いた場合の結果と従来の純Kr気体を用いた測定結果との間に乖離が見られた。今後最適な混合比の決定や最終的な実験精度への寄与を議論していく。 D. 核磁気共鳴法(NMR)を用いた磁力計の開発:高磁場での測定において磁場の絶対値を測定することは系統的不確かさの理解に向けて重要な役割を果たす。NMRを用いた磁場測定器を開発し、磁場の絶対値を18 ppbの精度で決定した。
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