研究実績の概要 |
本研究では、高分光特性を有するγ線用超伝導転移端センサ(TES)の大規模アレイを実現するため、マイクロ波信号多重化法(Microwave SQUID Multiplexer;MW-MUX)によるTES 信号多重化回路の開発を行った。MW-MUXは、超伝導共振器を利用し、TESの電流変化を共振周波数の変化として読出す周波数多重化方式であり、従来型のTES信号多重化方式よりも10倍以上のTES素子を多重化可能という特徴をもつ。本年度主に得られた成果は以下の2点である。 まず、MW-MUXにおいて読出回路の低雑音化には、共振器の無負荷Q値(Qi)が大きい必要がある。我々のMW-MUXチップでは、製作プロセスによってQi値が劣化することが問題であった。各プロセスを見直した結果、Pd抵抗層の有無によってQi値が一桁以上変化することが分かった。したがって、Pdの削残りが生じてQi値の劣化要因となっていることが判明した。さらに、Pdの削残りを回避するためカルデラ平坦化を用いた新プロセスを考案し、50,000以上の高Qi値を実現した。 次に、上述のチップにTESを2素子接続し、MW-MUXによる信号多重化実証を行った。磁束雑音は、100mKにおいて1.2uΦ_0/√Hzであり、他の研究機関に遜色ない値を得た。また、エネルギー分解能としては、128 eV, 115 eV@184 keV(半値幅)という値が得られた。この分解能に対するMW-MUX回路の寄与は、67 eV、57 eVであり、回路雑音によるTESの分解能の増大は20 eV程度に抑えられている。読出系雑音の分解能寄与はSQUIDと入力コイル間の相互インダクタンス(M)に反比例するので、今後更に低減するにはMを増大する必要がある。現状の設計値M=60 pHを4倍にすることで、読出雑音寄与を15 eV程度まで低減することが可能となる。
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