研究概要 |
本研究では,ヒトの認知に深く根ざしている比喩(メタファー)を対象として,その理解や鑑賞の認知過程を,多角的手法(計算モデルによるシミュレーション,認知心理実験,コーパス分析)を駆使して,探求・解明することを目的とした研究を行い,以下に示す研究成果を得た. (1)隠喩の理解の認知過程:名詞隠喩の理解過程に関して,解釈多様性理論という新たな理論を提案し,その妥当性(既存の理解モデルに対する優位性)を心理実験的手法と計算論的手法の両面から実証した.今までの比喩研究でほとんど扱われてこなかった形容詞隠喩(「赤い声」のように形容詞が比喩性を持つ表現)や動詞隠喩(「気分が舞い上がる」のように動詞句が比喩性を持つ表現)の理解過程について,新たに2段階カテゴリー化理論を提案し,主に計算論的手法を用いてその優位性を示した.心理実験による妥当性・優位性の検証については研究途中の段階であり,実証するまでには至らなかった. (2)隠喩の鑑賞の認知過程:隠喩の詩的効果の認知過程には,「ずれの解消」に基づくメカニズムとそれ以外のメカニズム(意味処理と審美処理)の両方が関与することを心理実験を通じて実証した.また,形容詞隠喩の一種である色彩語メタファーにおいて,色彩形容詞が本来持つ意味とは異なる意味,特に否定的な(ネガティブな)イメージが喚起されやすいことを,心理実験および多言語コーパス分析から実証した. (3)隠喩と直喩の選好に影響を与える要因と理解・鑑賞過程:「解釈多様性」という要因が隠喩と直喩の選好に影響を与えること,および,隠喩と直喩の理解・鑑賞過程が異なることを実験的に明らかにした.
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