研究概要 |
平成19年度の研究により得られた成果は以下の通りである. 1.名詞隠喩や形容詞隠喩における意味解釈と表現効果の認知過程の解明 (1)形容詞隠喩の理解モデルとして前年度に提案した2段階カテゴリー化理論の妥当性について検証するための心理実験(SD法に基づく評定,解釈自由記述,理解時間計測)を実施し,大規模な心理データを収集した.それらのデータの分析はまだ十分に終了していないものの,おおむね2段階カテゴリー化理論を支持する結果を得た. (2)形容詞隠喩は「共起に基づく隠喩」と「類似に基づく隠喩」が存在することを,言語学的・心理学的に明らかにした.そして,共起に基づく隠喩は形容詞の字義を強調するような解釈がなされるのに対し,類似に基づく隠喩は形容詞の字義に関係なく多様な意味を生成することを実験的に示した. (3)上記の結果の理論的検証としてベクトル空間モデルに基づく計算機シミュレーションを行い,類似に基づく隠喩は2段階カテゴリー化を通じて理解されるのに対し,共起に基づく隠喩は2段階カテゴリー化で理解されていないことを明らかにした. 以上の結果は,本課題研究を通じて新たに提案された2段階カテゴリー化理論の妥当性を,心理実験と計算機シミュレーションの両面から実証したまさに認知科学的な研究であり,従来の比喩研究にはこのような多面的な実証研究がなかったことや,形容詞隠喩についてはほとんど調べられていないことを考えると,非常に重要かつ意義深い成果が得られたと考えられる.
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