研究概要 |
本研究では,鉱山酸性汚濁水の発生を防止する新しい方法としてキャリアマイクロエンカプセレーション(Carrier Micro Encapsulation, CME)を提案する.本法では,地殻中に存在するTiO_2などの鉱物中のTiを有機キャリアで水に可溶化して,汚染源となる黄鉄鉱FeS_2などの表面に吸着させた後,キャリアを分解して化学的に安定なTiO_2薄膜で汚染源を被覆し,水や空気から遮蔽する. 昨年度の結果に基づき,Tiとの錯体形成能力や酸化分解性に優れたカテコール(1,2-dihydroxybenzene, C_6H_4(OH)_2)をキャリアとして選択し,黄鉄鉱粉末(粒子径53〜75μm)の溶解に対するCMEの効果を振盪フラスコ法によるモデル実験で調べた.実験は天然Ti鉱物の代替物として試薬アナターゼ(TiO_2)5kg/Lを用いて,黄鉄鉱-溶液比0.6kg/L,温度25℃,大気下で行った。CMEを施した実験(カテコールとTiO_2を添加した実験)では,黄鉄鉱表面にTiO_2あるいはTi(OH)_2の被膜が形成され、対照実験(カテコールとTiO_2の双方あるいは一方を添加しなかった実験)に比べて黄鉄鉱の溶解量(硫酸とFeの溶出量)が少なくなり,pHの低下が緩和された.黄鉄鉱溶解に対するCMEの抑制作用は,カテコール添加濃度0.01kmol m^<-3>以上,pH4〜7の範囲で発現した.また,別の実験では,Ti-カテコール錯体は代表的な造岩鉱物である石英SiO_2には吸着せず,黄鉄鉱に選択的に吸着することが確認され,黄鉄鉱の周辺に石英などが共存してもCMEの効果は低下しないものと推定された.これらの結果は,CMEが鉱山の廃さい堆積場や掘削跡地に存在する黄鉄鉱の溶解を抑制し,酸性汚濁水の発生防止に役立つことを示唆している.
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