研究実績の概要 |
陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞は、100℃10h の乾熱曝露後の生存が証明されている(Kimura et al., Biol. Sci. Space, 2015, 2017)。本研究は、陸棲藍藻 Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞に特異に蓄積されている低分子化合物の探索を行い、 昨年度、Sucrose および Glycine が乾熱耐性に関わる主な鍵物質である可能性を示している。見出された適合溶質が普遍的に存在する物質であったことから、適合溶質の添加による他の光合成生物への乾熱耐性の付与を試みる段階ではないと判断し、今年度は乾熱耐性機能の基礎情報の取得に尽力した。その結果、適合溶質の蓄積が乾燥ではなく湿潤状態における休眠細胞への分化時に行われていること、蓄積している低分子化合物に加えて元素種が細胞形態間で異なり得ること、 Nostoc sp. HK-01 の休眠細胞が 190℃程度の乾熱曝露により蘇生不可能になることおよび、乾熱耐性が休眠細胞に分化する藍藻間で一部共有されていることを見出した。これらの結果から、陸棲藍藻の休眠細胞は、湿潤状態における分化過程に特定の元素種を取り込み、多様な適合溶質を蓄積することによって熱に耐える準備を行っていることが示された。休眠細胞はこれまで水棲藍藻の冬眠のための細胞形態と見なされてきたが、本研究により陸上生態系における藍藻の生存にも大きく関わっていることを示し、その耐性機能に関わる基礎情報を複数明らかにした。今後、Nostoc sp. HK-01と他種の藍藻との共通点・相違点を洗い出すことや、熱耐性の限界温度と適合溶質の物性を相互的に考察することが望まれる。
|