研究課題/領域番号 |
17J00274
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
木村 駿太 筑波大学, 生命環境科学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2017-04-26 – 2019-03-31
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キーワード | 陸棲藍藻 / シアノバクテリア / 乾熱耐性 / 休眠細胞 / 適合溶質 |
研究実績の概要 |
陸棲藍藻Nostoc sp. HK-01は、その生活環における休眠細胞のみ100℃の乾熱曝露後に蘇生することをこれまで示してきたが、耐性に関わる鍵物質は解明されていなかった。Nostoc sp. HK-01は休眠細胞のみの藻体(細胞群)の作出が困難な種であることから、全細胞中の休眠細胞の存在の割合が異なる藻体を作出することで、休眠細胞にのみ蓄積される機能性分子の本体を、休眠細胞の割合を元に探索を試みた。各藻体から得られた抽出物(水溶性)を、HPLCおよびLC-ESI/MSを用いて分離・分析し、各抽出物成分量が著しく異なる分子量の詳細な解析から、休眠細胞に蓄積する物質として、sucrose、glycine、betaine、glucosylglycerolおよびtrehaloseの5種をLC-ESI/MSレベルで同定した。特に、trehaloseを除く4種が、休眠細胞に特異に蓄積していることを、本研究ではじめて明らかにした。更に、これら低分子化合物の、熱曝露後のNostoc sp. HK-01の休眠細胞の蘇生に必要な高分子保護活性の有無について、モデル酵素の乳酸デヒドロゲナーゼを用いて熱(50℃)曝露後に調べ、sucroseおよびglycineを50 mM以上、betaineを100 mM以上添加した条件下でタンパク質の熱凝集を抑制することを、実験的に示した。休眠細胞中に、sucroseおよびglycineが、glucosylglycerolおよびbetaineと比較して約1000倍高い濃度で蓄積されることを算出した結果から、sucroseおよびglycineが、Nostoc sp. HK-01の休眠細胞における主な適合溶質である可能性を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
熱耐性に優れた細胞形態に特に蓄積する低分子化合物がタンパク質の熱凝集を抑制すること、またその活性濃度に関する情報を具体的に示した。葉緑体の起源生物である藍藻の乾熱耐性機能の全容解明のための重要な情報を示し、公表論文として発表した。休眠細胞に蓄積される化合物を複数見出し同定したことは、当初の計画以上の進展状況であるが、本年度見出した化合物が機能分子の全てであることの証明には至らなかった。ジピコリン酸やSASP等限られた化合物が多量に蓄積されている枯草菌等の胞子と異なり、藍藻の休眠細胞には複数の機能性化合物が蓄積されていることが推察された。
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今後の研究の推進方策 |
H29年度に探索が終了していない画分を対象に、引き続き活性物質の単離および構造解析を行う。単離した適合溶質の他の光合成生物への効果の検証は、活性物質の探索成果に応じて移行する。化合物の添加による乾熱耐性の変化で検証する。実験は、適合溶質の細胞内への取り込みを確認した上で行う。適合溶質が細胞内に取り込まれにくい場合、界面活性剤やプロトプラスト化等と組み合わせて、細胞内へ適合溶質を蓄積させて行う。達成が困難な場合にも適合溶質の代謝に関わるタンパク質を探索し、適合溶質合成遺伝子の単離・導入に向けた研究基盤を確立する。
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