今年度は、研究計画に基づいて(1)皇子・皇女にかかわる人麻呂挽歌の分析および(2)死別表現語彙データベースの改訂を進めるとともに、本研究課題の最終段階として、(3)これまでの研究成果を学位論文としてまとめた。 (1)皇子・皇女にかかわる人麻呂挽歌の分析については、2015年度の美夫君志会万葉ゼミナールにおいて行った口頭発表「明日香皇女挽歌の構成」を骨子として、そのほかの殯宮挽歌との比較を視野に入れつつ、新たに分析と考察とを行った。 (2)死別表現語彙データベースの改訂については、まず第71回萬葉学会全国大会(2018年10月28日、熊本県立大学)において口頭発表を行い、そこでの議論に基づいて、各分類項目等を再検討し、修正を施した。その成果は論文「萬葉挽歌の死別表現―挽歌的なるもの―」(『萬葉』227号、2019年3月)として発表した。 (3)学位論文においては、「死なるものの理解と表現との関係」という新たな観点から人麻呂挽歌を総合的に論じた。論文全体は作品論篇と方法論篇の二部構成からなり、第一部では個々の作品の精読を通して人麻呂挽歌の表現的特徴を見定め、第二部ではそれらの特徴を相対的に位置づけるために複数の観点から分析を行った。本論文の完成をもって研究課題「死なるものの理解と表現との関係から見た柿本人麻呂挽歌論の構築」の達成とする。なお本論文によって筑波大学より博士(文学)の学位を受けるとともに、筑波大学人文社会科学研究科より最優秀博士論文賞を受賞した。 最後に、2018年度美夫君志会万葉ゼミナールにおいて「『ひぐらし』と『きりぎりす』―元暦校本の独自訓と平安朝の萬葉歌―」(2018年9月8日、旅館かう楽)と題する口頭発表を行ったことも付記しておく。これは本研究課題に直接する内容ではないものの、今後の研究活動の展開に向けて、連続した質をもつものである。
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