研究概要 |
不斉中心となる原子としては炭素が一般的によく挙げられる。しかし光学活性なリン,硫黄,窒素なども知られている。3つの置換基がすべて異なる3級アミンの窒素原子は不斉窒素原子となるが,そのままの状態では非共有電子対の速い反転のためにキラリティーを安定に保つことは難しい。ところが,非共有電子対を金属イオンのような別の原子に配位させることで室温でも安定にキラリティーを保持できることが近年明らかにされてきた。 これと同様の考え方を酸素原子に適用してみる。非対称エーテルの酸素原子に金属が配位すると,3つの異なるグループと非共有電子対の配置により,酸素原子は不斉酸素原子となる。本研究では,以上の考えに基づいて,不斉酸素中心に基づく光学異性体の単離と構造決定を目指し,糖含有化合物および不斉を持たない化合物からエーテル酸素が金属に配位することで不斉が生じる錯体の合成を行った。その結果,ピリジン部位を有する配位子を用いて,金属配位酸素原子上に発現するキラリティーに基づく異性体を単離・構造決定することに成功した。また,金属に配位することで窒素原子と酸素原子上に不斉を発現する配位子を用いた錯体の合成と構造決定も行った。今後,不斉酸素原子を安定化する要因についてさらなる考察を行う。これらの研究を通して『不斉酸素原子』という概念の一般化を目指し,さらにその不斉合成反応への応用を検討する予定である。
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