研究概要 |
希土類四ホウ化物RB4系のR=Tb,Dy,Hoの化合物の2段相転移の機構に,本研究がめざすフラストレーション効果が如実に表れているとの展望のもとに,その解明をめざし,中性子散乱実験を中心に研究した、顕著な成果は次の通りである. 1. DyB4について,Dyによる巨大な中性子吸収を回避すべく,試料の厚さを0.5mm程度に薄くした薄片を4枚配向して並べ,中性子非弾性散乱実験を行った.常磁性相(phase I),中間相(phase II),最低温相(phase III)の3相において,それぞれ特徴的な非弾性散乱スペクトルを測定することに成功した.また,磁気臨界散乱からも相転移の様子を研究し,問題となっているc面内成分は,phase IIですでに10の-7乗から-11乗秒という長い時間スケールでのゆらぎを伴った短距離秩序状態にあることがわかった. 2. HoB4について,phase I,II,IIIへの相転移プロセスについて,中性子散乱でその全貌を明らかにすることができた.極めて特異なことに,HoB4ではphase Iですでに格子不整合なphase IIに対応する磁気相関と格子整合なphase IIIに対応する磁気相関が,10Å以下の相関長をもって共存していることがわかった.マクロな物性で見た相転移の様子は,フラストレーションのないHoB2C2とほとんど同一であるのに対し,相関長の短い部分の振る舞いでは,HoB4に特有の現象が見られることがわかり,フラストレーションの効果によるものではないかと考えている. 研究当初は,この系のどこにフラストレーション効果が現れているのかもわからなかったが,本研究により,この系の全貌が解明され, phase IIという,すでに磁気モーメントのある成分が秩序化した状況の中に,さらなる安定構造をもとめて,大きな揺らぎが生じるという,この系特有の異常性が明らかにされた.
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