研究課題/領域番号 |
18H05208
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研究種目 |
特別推進研究
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配分区分 | 補助金 |
審査区分 |
理工系
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研究機関 | 東京工業大学 |
研究代表者 |
腰原 伸也 東京工業大学, 理学院, 教授 (10192056)
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研究分担者 |
石川 忠彦 東京工業大学, 理学院, 助教 (70313327)
沖本 洋一 東京工業大学, 理学院, 准教授 (50356705)
東 正樹 東京工業大学, 科学技術創成研究院, 教授 (40273510)
林 靖彦 岡山大学, 自然科学学域, 教授 (50314084)
羽田 真毅 筑波大学, 数理物質系, 准教授 (70636365)
桑原 真人 名古屋大学, 未来材料・システム研究所, 准教授 (50377933)
宮坂 等 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50332937)
小野 淳 東北大学, 理学研究科, 助教 (40845848)
石原 純夫 東北大学, 理学研究科, 教授 (30292262)
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研究期間 (年度) |
2018-04-23 – 2023-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
630,110千円 (直接経費: 484,700千円、間接経費: 145,410千円)
2022年度: 75,530千円 (直接経費: 58,100千円、間接経費: 17,430千円)
2021年度: 88,010千円 (直接経費: 67,700千円、間接経費: 20,310千円)
2020年度: 154,440千円 (直接経費: 118,800千円、間接経費: 35,640千円)
2019年度: 158,730千円 (直接経費: 122,100千円、間接経費: 36,630千円)
2018年度: 153,400千円 (直接経費: 118,000千円、間接経費: 35,400千円)
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キーワード | 光誘起相転移 / フェムト秒パルス電子線 / 量子ダイナミクス / 超高速ダイナミクス / 隠れた物質秩序 |
研究実績の概要 |
本研究では、物質と光子が一体化した場で極短時間に発現する、光励起特有の新秩序状態(Hidden State)の特性や生成過程を、フェムト秒分光・電子線構造観測手法を用いて解明し、超高速可逆光相変換物質の開拓や新奇(光誘起マルチフェロイクス)物質の開拓に挑戦することを目的としている。 2021年度は、当初目標達成のために、前年度に開発した電子線時間幅の圧縮技術を駆使したパルス電子線による電子回折実験に着手した。そして実際の薄膜結晶物質での光励起状態での超高速構造変化の観測を行った。具体的には、(1)光反射率測定から30fs程度での光誘起キャリアによる構造変化が期待される、半導体Si薄膜単結晶、(2)マルチフェロイック物質として磁性と誘電率が結合した変化が光誘起キャリアによって数100fs以内に誘起されると期待されるBiFeO3薄膜単結晶、という2種類の試料について努力を傾注した。これらの実験は2022年度において最終的組み込み実験を行う、スピン偏極パルス電子線源を導入するための準備作業を兼ねたものとなっている。 まず(1)の試料の測定から、パルス幅が75fs以下となり、励起レーザー光との遅延時間ふらつきも20fs以下であることが確認され、100keV電子線パルスとして世界最高の性能を発揮していることが確認された。この結果は、現在論文に投稿中である。さらに(2)の試料に関しても、光励起後100fs以内での構造変化発生に加え、コヒーレントフォノン振動なども観測され、75fs超短パルス電子線の特徴がいかんなく発揮された観測結果を得ることができた。現在励起強度との関係や試料依存性など詳細な実験データの積み上げが進行中である。加えてこの観測結果に関して、誘電性と磁性双方の特性の光スイッチという視点での理論解析を行うべく、本研究分担者と協力しての理論モデル構築も進行中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
まず、最大の予算を投入しているフェムト秒(fs)超短パルス電子線装置の作製に関しては、当初計画に沿って順調に進展し、設計仕様に合わせた自作部品に加え、各種機材(一部は自作)の準備を終え、実際の物質測定でパルス幅の見積もりを行うに至っている。とりわけ、Si単結晶など、フェムト秒時間分解光学測定などから、その構造変化の初期過程の具体的速さが予測されている物質を用いてのデモンストレーション実験からは、光学測定結果との比較検討から約75fs程度のパルス幅となっていることが確認され、ほぼ当初目的の装置性能となってることが確認された。現在論文を投稿中である。 加えて遷移金属酸化物や有機誘電体の光機能開拓においても、2021年度は電荷秩序を活用した電子型強誘電体物質の確立と、その超高速光応答の確認、さらには構築した75fsパルス電子線装置による電子回折実験から、光励起による超高速構造変化と誘電特性の変化が、マルチフェロイック物質においてそれも室温で発現することが見いだされた。これは室温動作での超高速誘電・磁性スイッチ材料の開拓に直結する成果となった。この成果は、新しい強誘電体設計の枠組みをもたらすのみならず、新動作原理に基づく強誘電体の超高速光制御という視点でも、物質開発に新しい方向性をもたらすものとして、注目をされている。 なお新型肺炎の影響で、スピン偏極線源装置の組み込み作業で遅延がやむを得ず生じているが、装置全体としては、100keV電子線パルスとして世界最高の性能を発揮するものが完成し、具体的物質での運用開始に至っている。また電荷-格子結合材料系では、新原理の強誘電体創成とその光機能開拓や、従来はガス吸着体等として考えられてきた金属-有機構造体(MOF)が、超高速光誘起相転移を示すことを示唆するデータなど想定外の成果も得られており、研究は順調に進行中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は順調に進行中である。現在の物質開発、装置開発、理論開拓の枠組みでの運営は効果的に機能していると考えており、この3本柱の体制は今後も維持する 予定である。 特に2022年度は、まず装置開発面では、新型肺炎の影響で遅れている、fsパルス電子線回折測定装置にスピン偏極線源を導入する作業に、出張など許容される範囲で最大限の努力を傾注し、本研究の装置面でのすべての目標達成を目指す。このスピン偏極線源導入と並行し、電子線パルス幅の簡便な測定法として近年開発された、THz光励起による電子線変調測定法の準備作業が進行しており、具体的パルス幅測定への応用に着手する。このTHz光導入は、物質の励起光波長域をTHzまで将来的に拡張する上で必要不可欠な技術であり、アウトカムとしても重要と考えている。準備実験装置での評価と改良が終わり次第、論文投稿準備に着手する。 物質開発に関しては4年間の研究進展で、THz領域の励起光を用いて、新規強誘電体を中心に、量子光誘起相転移の発現とそれを利用した強誘電性の超高速制御の達成に至ることができた。このTHz光への、応答過程での超高速構造変化の寄与の解明のためにはやはりTHz光の電子線回折装置への導入が必要不可欠であり、この点を今後集中的に取り組む予定である。これによって、フロッケ状態等のキーワードで理論的にも興味を集めている、THz電場による誘電性・磁性といった共同現象の超高速コヒーレント制御、という基礎・応用両面でインパクトのある展開を狙う。 加えてマルチフェロイック材料の光誘起構造変化や、そのコヒーレント振動が電子回折で直接観測できるようになったことを受け、誘電・磁性の協同的変化に直結する超高速構造変化の理論構築に着手する。そのために、これまで蓄積した理論模型に基づいた計算による知見を生かし、実験に即した設定での計算を実行する。
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評価記号 |
中間評価所見 (区分)
A: 研究領域の設定目的に照らして、期待どおりの進展が認められる
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