研究課題/領域番号 |
18K02720
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09050:高等教育学関連
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研究機関 | 埼玉大学 |
研究代表者 |
中本 進一 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 教授 (50345443)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2021年度: 1,300千円 (直接経費: 1,000千円、間接経費: 300千円)
2020年度: 910千円 (直接経費: 700千円、間接経費: 210千円)
2019年度: 1,040千円 (直接経費: 800千円、間接経費: 240千円)
2018年度: 1,170千円 (直接経費: 900千円、間接経費: 270千円)
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キーワード | 多文化共生 / (異文化における)自己実現 / グローバル人材 / 異文化受容力 / アイデンティティ / 異文化適応 / 順応性 / 自己開示力 / 元留学生 / 順応 / 留学生 / 就職 / 心理的変容 / 文化変容モデル / 定住 / 留学生政策 / 適応 |
研究実績の概要 |
本研究では以下の3点について明らかにする計画を立てた。 ア) 卒業後、日本の企業への就職を選択した要因、現在の生活状況・心理的変容イ) 日本定着への意欲・期待、そして将来にむけた人生計画(子女教育を含む)ウ) 他外国(留学生政策と多文化共生政策の先進的事例であるオーストラリアとドイツ)における卒業後の留学生の追跡調査と日本(ア、イ)との国際比較 2018年~2020年では、海外、特にオーストラリアやドイツ等(留学生政策や多文化共生推進先進例)における、留学生の卒業後の就職、定住状況の追跡調査を行った。具体的には、本研究の国内調査と同様、海外協定大学の東・東南アジア元留学生10名を対象とし、就職後の、内的変容、現地定着への意欲・期待、そして将来にむけた人生計画(子女教育を含む)関してライフストーリ法でデータを収集した。そして、Berry の文化変容モデルを用いて、内面的変容と、その要因についての分析を行った。調査から分かったことで特に重要と思われたのは、協力者たち自身が感じている自己効力感(実際に職場でもチームのメンバーとして役に立っているという自己肯定感)と、公私様々な局面において所属している集団の多様性である。 2020年~2022年はコロナ禍の影響を受けたために海外出張は実施できなかったが、オンラインでのフォローアップインタビューを行うことができ、日本の職場や居住地域における同化圧力を調査協力者たちが感じていることが分かった。このことが起因して日本の異文化受容力について考えるきっかけとなった。 2022年に実施したシンポジウムから、コンテキストが高いという状況が実は日本人同士においてもコミュニケーション不足に陥る原因になっていることが分かってきた。これをきっかけとして自己開示力について注目することが本研究に関する一つの成果となった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
対面インタビューとオンラインインタビューを組み合わせつつ、新たに4名の元留学生が調査協力者としてデータ収集に応じてくれたこともあり、昨年度(2022年度)は2つのシンポジウムに参加し、これまでの研究発表に加え、更なる研究へ発展する可能性をもつヒントを得た。 本研究は国内外において計34名の元留学生を対象にインタビュー調査を行い、彼らの自己実現においては、帰属対象となるグループ(準拠集団)の多様性とともに、自己効力感の高さがポイントとなることが分かってきたが、その中で日本社会の持つ「こころの壁」が新たな課題として浮き彫りになった。しかしこの「こころの壁」は日本で生まれ育った日本人たちが海外で感じるものであり、日本人としてのアイデンティティが誇りや自尊心として働く一方、「壁」となり地元の住民との交流に支障をきたす場合があることもわかってきた。 その意味で、2022年12月14日、埼玉大学シアター教室(総合研究棟1階)において、人文社会科学研究科・中本研究室主催で多文化共生推進シンポジウム「『こころの壁』を乗り越えるために私たちが始められること」を開催した意義は大きいと考えている。シンポジウムで登壇した4名のパネラーはは卒業後、就職し職場で大活躍し、多くの日本人との交流を続けて移住してきた元留学生で、そのうちの2名(中国籍、オーストラリア籍)は日本人と結婚するなど心の壁を乗り越えてきた元留学生であり、彼らが一様に日本人との交流の中で多くの工夫を試行錯誤してきたことが分かった。 その中で、いかに自己開示力を磨くことが大切かがポイントであること、出来る限り本音をしっかり伝えることのできるコミュニケーション能力を育成することが心の壁を乗り越えるカギになるというヒントを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
日本社会の異文化受容力を相対化するためにはどうしても国際比較を行う必要がある。そのために2023年度中には資料収集のためにアメリカ、オーストラリアのいずれかの大学へ出張し、既卒の元留学生にインタビューを行う予定である。これまで、ドイツ、オーストラリアにおける元留学生へのインタビューを実施し、日本が就労環境の面においてかなり特殊であることが分かってきた。 現在イリノイ大学の国際担当教員と連絡を取っており、基本的には対面を中心とするインタビュー設定の可能性を探っている段階である。担当者によると、数名の対面インタビューは可能であり、事情に応じてオンラインのインタビューを行う段取りとなっている。先ずは9月第2週目のスケジュール調整を行っているところである。 これまで日本型のコミュニケーションと言えば、いわゆる空気を読むこと、言葉を控えつつ自己開示を慎重に行うことなどが既存の先行研究等でも議論されてきたことではあるが、「こころの壁」を乗り越えるきっかけとなるのは伝える能力の重要性であり、この重要性は「空気を読む」ことより重要である。従って日本人社会での自己開示の重要性について調査を加えることにより、可能性として日本社会の特殊性ではなく、普遍性に接近できるのではないだろうか。この点につき研究を深化させたいと考えている。
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