研究課題/領域番号 |
18K02989
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研究種目 |
基盤研究(C)
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配分区分 | 基金 |
応募区分 | 一般 |
審査区分 |
小区分09080:科学教育関連
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研究機関 | 東京農業大学 |
研究代表者 |
武田 晃治 東京農業大学, その他部局等, 教授 (70408665)
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研究分担者 |
緩利 真奈美 東京農業大学, その他部局等, 助教 (70782647)
浅沼 茂 立正大学, 心理学部, 特任教授 (30184146)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2024-03-31
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研究課題ステータス |
交付 (2022年度)
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配分額 *注記 |
4,420千円 (直接経費: 3,400千円、間接経費: 1,020千円)
2020年度: 780千円 (直接経費: 600千円、間接経費: 180千円)
2019年度: 1,690千円 (直接経費: 1,300千円、間接経費: 390千円)
2018年度: 1,950千円 (直接経費: 1,500千円、間接経費: 450千円)
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キーワード | 科学教育 / 教材開発 / 色素 / カリキュラム / 生物色素 |
研究実績の概要 |
令和3年度に引き続き、サケの食物連鎖上の生物に含まれる色素に着目した教材・授業開発に取り組んでいる。その過程で、サケの食物連鎖上にある「無脊椎動物」・「軟体動物」であるクリオネの質感や色味を8か月以上維持するための最適な保存条件を明らかにした。本年度はサケの食物連鎖上の生き物(ヘマトコッカス藻、クリオネ、オキアミ)に共通した色素であるカロテノイド色素の一種であるアスタキサンチンを観察する実験教材取り入れた授業開発に取り組んでいる。 アスタキサンチン含有餌により青色とピンク色に体色変化する白色ザリガニの体色要因に着目した遺伝領域での教材化に向けた基礎研究として、アメリカザリガニのアスタキサンチン結合タンパク質として知られるPcCRA2遺伝子に着目している。本年度は青色とピンク色に体色変化したそれぞれF2集団のザリガニ個体から抽出したゲノムDNAを用いてPCRを行い、増幅産物の比較を行った。その結果、青色個体ではバンドの増幅がみられたが、ピンク色個体ではバンドの増幅が見られなかった。 また、学校における実践研究として新型コロナウイルス感染予防対策を徹底し、小学生、中学生、高校生の児童・生徒から大人を対象に、アメリカザリガニを題材にし、本研究で明らかとなってきている知見も組み込んだ授業実践を行った。授業実践を通じて、アメリカザリガニをきっかけとした外来種問題や環境保全や生き物の命に対して改めて考える機会になっていることや教育など資源としての捉え方のきっかけになることが、受講者の感想からも明らかとなった。 理論的な研究としては、これまでの授業実践の結果をもとにどのような教育効果が得られ、その課題がいかなる点にあるのかについて論点を絞り単元開発の視点を検討した。とりわけ、教師の理科的知識における専門的バックグラウンドを有効に活用した単元開発の視点を見出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
開発教材を用いた学校での授業実践研究や遺伝領域の実験教材開発に向けた基礎研究がやや遅れている。 「無脊椎動物」と「軟体動物」の観察教材として開発した生徒に人気のあるクリオネの質感や色味を維持した標本教材を活用し、本年度はサケの食物連鎖上の生き物(ヘマトコッカス藻、クリオネ、オキアミ)に含まれる共通色素として、カロテノイド色素の一種であるアスタキサンチンを観察する薄層クロマトグラフィーによる実験を含んだ授業開発に取り組んでいる。 遺伝領域の実験教材開発の基礎研究として、アメリカザリガニの体色要因に関わるアスタキサンチン色素結合タンパク質(クラスタシアニンサブユニット)に該当するPcCRA2遺伝子に着目している。これまで、アスタキサンチンにより青色、ピンク色に体色変化する個体を無作為に選び、それらから抽出したゲノムを用いてPCRを行った結果、青色個体では予想された位置に増幅産物が確認され、ピンク色個体では観察されなかった。 本年度は、それら青色、ピンク色に変わる個体それぞれのF2世代数匹からゲノム抽出し、PCRを行った。その結果、F2世代においても青色個体では予想された位置に増幅産物が観察され、ピンク色個体では観察されなかった。 理論研究では引き続き、「議論」をベースとした科学教育の在り方について考察を行い、単元開発の視点を考察することにしていた。ただし、本年も教室内でのディスカッションに関する実践観察や聞き取り調査の実現が困難であったため、主には文献研究を進めた。一方、単元開発の視点としては、教師の実践的知識の構成要件のひとつである「専門的バックグラウンド」が重要であり、それにより単元をデザインすることが可能ではないかという仮説を見出した。本研究の教材である生物を対象にした科学教育の実現に向けて課題を含め、教師の専門性を生かした単元開発の視点を示すことに注力した。
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今後の研究の推進方策 |
サケの食物連鎖上の生き物(ヘマトコッカス藻、クリオネ、オキアミ)に含まれる共通色素であるアスタキサンチンを観察するための薄層クロマトグラフィーの実験を取り入れた授業実践を行い、授業や実験教材としての評価を行う予定である。 PCRにより増幅した産物が目的のPcCRA2遺伝子なのかを調べるとともに、F2世代の青色、ピンク色個体から抽出したゲノムDNAを用いて、PcCRA2遺伝子のコーディング配列の上流、下流のプライマーを設計し、PCRによる差異を示す領域を調べる予定である。そして、得られた結果から高校生物での遺伝の単元における実験教材として、アメリカザリガニの体色(青とピンク色)に着目した色の違いに対する遺伝マーカーの作成を目指す。これら実験サンプルを多く準備するためにも、F2世代のそれぞれの系統繁殖に取り組む予定である。さらに、これら体色の違いの要因を色素のみならず、それに関わるタンパク質レベルでの違いを確認し、動物色素に着目した新たな遺伝子・タンパク質教材の開発に取り組む。 アメリカザリガニには、遺伝的に固定された様々な体色(赤、黒、青、ピンク、オレンジ、緑)を呈する個体が存在する。そこで、これらの体色要因となる色素の探索を、様々な体色個体の脱皮殻を用いて探究し、教材化につなげていきたい。 理論的研究では引きつづき、これまで開発してきた教材を用いた単元デザインの総括を行いたいと考えている。本教材のように、教師の専門的知識を生かした単元の在り方やデザインについて提言を行いたい。また、「議論」を中心としたカリキュラム、教育方法を総括したいと考える。近年、重視されているアクティブラーニングにも通底するが、「議論」を適切にカリキュラムに取り入れた実践例を収集し、米国における科学の探究学習との比較を行いながら今後の授業と教材研究に役立てたいと考えている。
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