研究課題
若手研究
本研究課題は,島根県内における地域保健活動を担う人材育成と活動実践の歴史的変遷を文献調査やインタビュー調査を通じで明らかにすることを目的とした。ただし,調査期間中にCOVID-19の流行により,戦後(昭和40年代)から地域保健に携わった当時の保健師および保健所職員にインタビュー調査を実施することは叶わず,文献調査及び方法論に関する議論を中心とした研究活動に従事した。その結果,島根県では国家事業として開始された「脳卒中予防特別対策」を県の事業として「新脳卒中予防対策事業」に引き継がれていた。また,地区単位で保健師と地域住民が連携して「重点地区活動」が展開された。これは健康づくりを基とした地区組織体制の構築であり,地域保健法が制定されるまでに県下80地区で実施された。島根県独自の脳卒中発症調査や健康・疾病予防に関する地域活動(祭りなど)も実施されていた。また,重点地区活動では,活動地域における交流会なども実施された。ただし,地域保健法の改定や度重なる市町村合併により,これらの地域保健活動は衰退してしまった。現在でも少数地区ではあるが当時の保健師などが中核となった地域の健康づくり活動が現存している。これらの活動は,島根県の脳血管疾患発症率の減少に貢献したと考えられる。これらの地域活動を地域住民とともに推進したのが保健師であるが,島根県の保健師養成に関しても,戦中から「社会保健婦」として養成された独特な教育課程が存在していた。これらの保健師が率先して,地域活動を醸成させていたことが明らかになた。また,これらの歴史的な活動実践を明らかにするために,質的研究に関する方法論の検討も実施した。時間を捨象しないで歴史的変遷を記述する方法として,複線径路等至性アプローチの援用を検討した。
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