研究課題
国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(A))
末梢と中枢組織の間には、中枢関門が存在する。本研究では、最先端オミクス技術を有するスイス連邦工科大学分子システム生物学研究所との共同研究によって、トランスポーターの探索・局在解析・基質探索及び生理的役割解明を一挙に達成できる「次世代型トランスポーター解析基盤」を構築し、中枢機能の恒常性維持のために中枢関門がどのような生理的役割を果たしているかを解明することを目的とする。
本プロジェクトでは、トランスポーター研究領域を開拓するため、独自の定量プロテオミクスの手法をベースにして、これまでにない手法を開拓し、中枢関門のトランスポーター研究に応用した。スイス連邦工科大学の共同研究チームが樹立したSWATH法と、内田らの独自技術を融合させ、網羅的にトランスポーターのタンパク質存在量(mole)を決定できる方法(qGAP法;quantitative Global Absolute Proteomics)を開発した。また、この網羅的かつ高精度な定量プロテオミクス技術を用いて、トランスポーターの細胞膜局在(apicalとbasolateral)を網羅的に解析する手法を確立した。血液脳関門と異なり、血液クモ膜関門は、organic cation transporter 2(OCT2)やmultidrug and toxin extrusion 1(MATE1)を発現し、血液脳関門とは異なる構造の有機カチオン性物質を輸送する役割を担っていることが解明された。血液クモ膜関門は、OAT1,OAT3,OATP1A2、OATP2B1およびMRP4をはじめとする有機アニオントランスポーター群を高発現し、それらの細胞膜局在から、中枢組織からの有機アニオン性物質の排出に寄与していることが示唆された。これらのトランスポーター群は、血液脳関門には発現しないあるいは微量であることから、血液クモ膜関門が、血液脳関門とは異なる有機カチオン・アニオンの輸送機構を備えていることを示唆している。さらに、SWATH法とクロスリンク法を融合させることによって、目的の化合物を輸送する輸送担体を効率よく同定する「PICK法」を開発し、血液脳関門において有機カチオン性薬物を脳内へ供給輸送する新規輸送担体複合体TM7SF3/LHFPL6を発見し、輸送特性を決定した。新型コロナの影響で、予定していた渡航日数に足りていないが、海外共同研究先とのWeb会議等を多用することによって、技術導入および成果の創出を行うことができ、最終的に当初予定していた研究目的を達成することができた。
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